時を越えたバレンタイン

9741

02/15

 好きな人のために、私はチョコレートを手作りした。


 そして最高傑作のチョコレートが完成した。


 このチョコを渡して、あの人に告白するつもりだった。


 だけど、渡せなかった。


 恋愛物語にありがちな、『作ったけど、いざ当日になると勇気が出なかった』なんて可愛い理由ではない。


 バレンタイン当日、私は寝ていた。


 寝てしまっていたのだ。


 連日徹夜でチョコレート作りの研究をしていたツケが14日に回ってきてしまったのが原因だ。


 現在、時計の針は12時を過ぎ去り、2月15日。


 最悪だ。


 憧れのあの人にチョコレートを渡せなかった。



「てってれぇ~、こんにちは僕、兄えもん」



 私が凹んでいると、似てないモノマネをしながら兄がやってきた。


「しょうがないなぁ。のび子ちゃんは。僕が何とかしてあげるよ」


「なによ。タイムマシンでも出してくれるの?」


「違うよ。まずは……」


 兄えもんが物陰から何かを持ち出してきた。


「てってれぇ~、『拘束された憧れの人』~」


 それは、私がチョコを渡そうとしていた人。しかも縄で縛られている状態だった。


「ちょ、」


「次は……てってれぇ~、『クロロフォルム的なもの』~」


 私が「どういうつもり?」と言う前に、兄えもんが新たな道具を出してきた。


 そしてそれを素早く使って、兄は私を眠らせた。





 眠っている間に運ばれたらしい。


 目が覚めると、そこは私の部屋ではなかった。


 どこかの浜辺だった。


 私の想い人、あと兄も一緒にいる。


 私はふらふらした足取りで、兄に掴み掛かった。


 怒る私を、まあまあと兄は宥めながら、次にこう言った。


「時計、見てごらん」


 そう言われて、私は手首につけている時計を見た。


 そこにはこう表示されていた



 ―――02/14、19:59――



 あの時、私が薬で眠らされた時には、確かに15日だった。


 でも時計は14日を指している。


 時計には、細工された痕は見られない。


 つまり。時間が、戻っていたのだ。 


 まさか……コールドスリープ?


「あ、コールドスリープなんて非現実的なやつじゃないからね?」


 私の考えは、即効で兄えもんに否定された。


「もっと簡単な方法だよ。君達2人を飛行機に乗せて、日付変更線の向こう側へ飛んだだけ。日本じゃバレンタインは過ぎちゃったけど、この国ならまだバレンタイン当日……まあ、方法なんてどうでもいいか。とにかく、ほらっ、チョコを渡すなら今だよ」


 私の背中を押す兄えもん。


 私の目の前には、憧れのあの人。


 私の手には、手作りのチョコレート。


 そして日付は2月14日。


 私の次の行動は決まっていた。


「好きです、付き合ってください!」


 私はチョコを差し出しながら、彼に告白した。


 彼の返事は……。







「いや、人を拉致するような人間の妹とか無理」







 兄のおかげで、バレンタイン当日に告白することができた。


 兄のおかげで、あの人に振られた。


 振られた腹いせに、日本に帰った後。私は兄えもんをタイムパトロールに突き出した。

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