番外編:張港榮著「李笙霖と女たち」を読んで
魅惑のルポルタージュ第二段
張港榮氏によるベストセラー「二都伝説――上海と香港」に続くルポルタージュの第二作です。
「上海のアル・カポネ」、「香港のゴッドファーザー」と言われた李笙霖については二都の近現代史を俯瞰した前作でも度々言及されていました。
しかし、今回は彼個人を深く掘り下げた点に新しさを感じました。
李笙霖の一生は
映画では弟の晧しか出てきませんが、実際には七人兄弟で成人するまで生きられたのが二人だったとこのルポで初めて知りました。
そうした事実を念頭に置くと、裏社会で地位を築いてから骨肉の争いに陥った兄と弟の運命がいっそう哀しく思えます。
さて、話を本題に戻すと、タイトルからも明らかなようにこのルポでは彼と関わりのあった女性たちの詳細が記されています。
個人的には正妻の韓月娥や上海時代の愛人だった女優の潘馨華よりも日本に潜伏していた頃の情婦で東亜楼事件の共犯だった市川サダメが一番強く印象に残りました。
映画では日本に潜伏していた頃や東亜楼事件にはごく短くしか触れておらず、サダメを演じたのもごく無名の女優さん(しかも韓月娥や潘馨華と比べて明らかにブスで日本人に対する悪意を感じました。実際の市川サダメは『黒鳳蝶』と呼ばれた女性ですし、残された写真を見てももっと端正な風貌です)でした。
しかし、ルポを読むと、一緒に過ごした期間は短いものの、李笙霖はサダメを非常に愛していたようで、晩年になっても擦りきれた彼女の写真を胸ポケットに忍ばせて持ち歩いていたそうです。
日本では市川サダメは「昭和の毒婦」と言われ、ドラマなどではいかにも悪辣な風に描かれます。
ですが、張港榮氏がインタビューした当時の東亜楼従業員の子供だった中国人女性によると、彼女は経営者として働きのある人は日本人、中国人、朝鮮人の分け隔てなく昇格させ、また、貧しく不遇な人には進んで手を差し伸べる優しい人だったとのことです。
逆に、生き埋めにされて殺された彼女の日本人の夫は中国人や朝鮮人の従業員には常日頃酷い仕打ちを加えており、非常に恨まれていたそうです。
この辺りは日本のドラマではあまり描かれないので大変興味深かったです。
李笙霖はその後、共産化する上海を逃れて香港に渡り、そこでも裏社会を牛耳るボスとして君臨します。
晩年は女中上がりの姜靜娟を寵愛していたようですが、この彼女が中国人の母親と日本人の父親との私生児で、写真を見ると、サダメにどことなく似た面影なのも奇妙な縁を感じました。
張港榮氏の第三作にも期待しています。
*monogatary.comのお題「実在しない『本』の読書感想文」からの創作です。
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