第2話時計蛙

僕の名前は、鈴川 岳 (八歳)同級生の少女、赤西 葵の様子がおかしい、

元々が真面目気質だった彼女であったが、それが近頃、帰りのホームルームの時に鳴くのだ。

文字を間違えたわけではない、鳴くのである。夕日が辺りながら、皆が先生の話しを聞いていると、いきなり『ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ・・・』と言い出すと一分以上口にしていた。

だが、それより恐怖だったのは彼女の目だ。一直線に張り時計を見て、『ゲロ』と言っているのだ。男子のいたずらでないし、何より彼女の性格が、そんな意味もないことをするはずがないのだ。

その後、キョトンとした顔を見せ、僕らに「どうしたの」と訪ねる。

彼女には、自分が先生の前でしたことを忘れているようで、先生に呼ばれて職員室に連れていかれるときも(何故)の顔になっていた。

それから、同じ時間になると『ゲロゲロゲロ』と鳴き出し始めて、先生やクラスの連中もムカつき出すものや心配する者が現れ出す。

遂に四日後、彼女は学校に来なくなった。僕は、彼女の家に近いクラスメイトから相談を受けた。

「マジで、変になってるんだよ、俺が回覧板渡しにいったら、葵の奴が二階から姿見せたんだけど、めっちゃ不気味に雰囲気変えていたんだよ。」

「どんな風に?」

「よく、小説なんかで出てくる怪しい人っているじゃん、トレンチコートみたいなのに、包帯とかマスク・サングラスで顔隠して見えないようにする怪人みたいな奴、あれが彼女の部屋にいたんだよ。」

「だけど、それが彼女とは限らないだろう」

クラスメイトは、自分が見た恐ろしい光景を思い出しながら、僕に話し始めた。

「目が彼女の物だったんだよ。でもね、それ以外の姿が、なんとも異様なんだ。怪人なんだよ」

彼の言う化け物の程度が、どれ程の物か知らないが、僕には、全く関係のないことであった。

知らない人でない分心配はしているが、それ以上の思いがあるわけでもない。

「ちょっとまってくれ、一つ聞くが何故に僕に相談した。」

「それは、君には友達がいないからだ。」

その考えもしなかった答えに、呆気にとられた。

怒りを抑えながら、彼の話しを聞くことにした。

「何故に、友達がいない僕に話したんだい?」

「君に話したところで、葵の話しを広めることはないと思った。」

真面目な彼女のイメージが、あのホームルームでの一件で評価が下がっているから、これ以上の評価を下げたくないとのことだ。

彼を一発殴ると、僕は彼女の家に付いていくことにした。

赤西の名札が見えた。一軒家ではあったが、周りの家に比べると日本家屋で、一つ浮いているようにも感じた。

第一印象が、幽霊屋敷と思えてしまうのは、仕方ないかもしれない。

「ここで、家族と暮らしているの?」

「そうだよ、ただ父親が逃げたらしくて、金に困っているらしいけどね、」

「彼女の家、金に困っていたの?」

クラスのことなんて知らない僕ではあったが、始めて知ったクラスの情報が、まさかの人様の金銭問題であったのは困ってしまう。

「生活できるぐらいはあるけど、名門中学の試験が受けれないって嘆いていたよ。葵頭いいからこれ以上評判悪くなったら、それだけでも入るの難しくなるしね、」

「彼女の話しはいいから、早く会わせてもらえるかな?」

所々でだす、(葵)と呼びすてにする彼の言動にも自分の大事な人感をだすなよと、ちょっとイラッとしていた。

インターホーンを押すと、彼女の母親が現れた。至って普通に笑顔を見せてくれる母親に、逆に不気味差を感じれずにはいれなかった。

「葵友達がみえたわよ、健君ごめんね、体を崩してから一歩もでないのよね、困ってわいるんだけど」

その時、ガチャとドアの開く音がした静かに開くドアの向こうから、眼だけが見えるように他はマスクと毛布で隠されて、彼女と判別するのも困難であった。

「かっ母さん以外は入って・・・っあ」

女性の声、いや人の声とも言えないほど、不気味に言葉が歪んでいた。他にも何か言った気がしたが、その文字を拾うので精一杯であった。

僕らが中に入ると、ドアにまた鍵を掛けたこれで完全に密室になってしまい、入ってからだが少し後悔もある。

「健君、来てくれたんだね、あなたは?」

「鈴川 岳です。一応君のクラスメイト」

頭を掻きながら自己紹介すると、「あっいつも一人でいる人‼」何故か、そこだけ元気のない彼女なはずなのに、力強くいい放った感じにみえた。

それに、自分の中で一クラスメイトとしてしか、付き合いのない彼、健こと(前之宮 健)を紹介するのをすっかり忘れていた。

「それで、赤西さんいったい何が起こったの?」

「健君、一つ聞きたいんだけど、何で私が窓から外見たとき、すぐに家に入ってくれなかったの?私すぐに会って相談にのってくれると思って待っていたのに、何故来なかったの」

健は少し静になり、「ごめん」と一言口にすることしか出来なかった。

「鈴川君も健が見た私の姿見たら、もう会えないかもね、だから、健君だって一人が怖いから鈴川君に頼んだんでしょう。」

健が僕を呼んだのには、そんな糸もあったのかと、改めて知った。

「鈴川、私の姿見て」

バサッと毛布の中から出たのは異様な物であった。赤西さんは体の半分が、まるでガマガエルのように滑りをおびていた。

差し出された手は、もう人間の手ではなかった。

静かな沈黙が部屋に流れた。

「母が私をこんな化け物にしたのよ」

涙を流しながら、健に抱きついてきた。

普通なら羨ましい気持ちになるが、今の状態の彼女に抱かれても健も嬉しくないだろう、

「お母さんに何かされたのかい」

「一匹の蛙を母が取ってきたことから、この怪現象が始まったのよ。始めは私も可愛がっていたのだけれど、ある時、蛙の眼が人間の眼球に見えたの、疲れてた為の妄想として気にしていなかったけど、でもある日から蛙の眼球を見た夕方の時間になると、自分の口から蛙の声が鳴いてることを先生に指摘されて、それからは休むことにしたわ、それからは時を刻む時計みたいに、ゲロゲロと鳴くたんびに自分自身が蛙になって行くのが分かるのよ、だからお願い助けて、母の蛙を殺して・・・」

蛙の姿をした赤西の恐怖体験を聞きながら、僕らは、1階にいる蛙のケージを観ることにした。しかし蛙はその中には居なかった。しかしだ、僕らを驚かせた物が、磨りガラスの向こう側にあった、人の姿であった。

おばさんが、何か食べさせているようだ。

恐る恐る開けると、体は人間の形になりかけていて、顔は不完全に人と蛙が合わさった不気味な姿がそこにはあった。

「かっ母さん、何してるの?」

「あら、部屋から出たのね、ほらみなさい妹が出来たわよ。あの蛙がまさかのコウノトリだったなんてね、もうすぐ、人の形になるわよ。良かったわ、お姉ちゃんみたいに頭良くならなくていいからね、勉強出来なくても普通に生きられる人になりなさい」

おばさんは、笑いながらその化け物の頭をわが子のように撫でている。

健は、気分が悪くなり、吐いてしまった。

「お母さん、それは私の分身なの、そのまま育てたら私蛙になっちゃうんだよ。」

「別に良いじゃない、容姿が蛙になるだけでしょ、蛙になれば食費も浮くし高い中学に入学させなくていいしね」

その言葉が本音か言わされているかわ分からなかったが、彼女の心に大きく傷は残してしまったであろう。

その時であった。健が葵になりかけている蛙に刃物で刺した。

蛙は叫びもなく、静かに流れ出る血とともに倒れこみ椅子から落ちた。

しかし、次に蛙人間を見たときには、もうさっきまで人の姿をした人間ではなく、蛙に戻っていた。葵さんもゆっくりではあったが、蛙の姿から人間の姿に戻っていた。

しかし、母親は蛙の娘を本当に愛していたせいか、気が狂いそのまま精神病院に入院することになった。

それからは、彼女は親戚の所へ引っ越す事になった。僕らは列車に乗る彼女を見送りに行った。

「さよなら」と手を振りながら走り出す列車の中から見える、葵さんのスーツケースに一匹の蛙が「ゲロ」と鳴いて見えたのは、僕らの勘違いなのか?

それは、葵さんに連絡がとれるまで、どれだけ心配なことであるか、不安な別れであった。

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