僕らの世界
西田 正歩
第1話 少年と少女
鈴川 岳くん(八歳)は、一人 廊下に突っ立っていた。授業中の廊下には不気味と湿り気があり、ヒヤッと冷たい風邪が吹き抜けているようだ。
ズルで授業を休み、保健室に行くところであった。全くの偶然だが、このなんともいえない不安に、立ち尽くしてしまったのだ。
( 何もない)気持ちを落ち着かせながらも、血の鼓動が、耳の中にドクドクと音をたてて、聴こえてきてしまう。
「ワッ」
いきなりの事に、よどけてしまいそのまま崩れてしまった。「ハハハ」と、笑う声が聞こえると少女が僕の顔の前に近づけて、ニッコリまた笑った。
可愛い顔をしている、僕より低学年でとても魅力的な姿ではあったが、素直に喜ぶ事ができないのは、彼女の膝から下が無いからなのである。
始めてのオバケを見た体験が、ズルして保健室に行く途中というのも喜べない理由の一つだ。
「君はオバケかい」
何を言っているのだろうか、当たり前のことしか、言葉に出せない自分があわれである。
「うん、そうだよ」
答えた・・・それも即答でだ。多分、今僕は一番馬鹿な事をしている。
母に肌身離さずと言われた健康安全の御守を握りしめながら、神頼みしている。オバケから守ってくれと、
「ねぇ、岳くんは御守をポケットに着けてるの?」
始めの質問が御守の質問とはオバケの方もなかなかの僕に対しての質問が見つからず、何かをきっかけにしていたのだろう。
いや、ちょっとまて、今僕の名を”岳くん”と呼ばなかっただろうか、いや、確かにオバケは僕の名前を言った。
「なっ・・・何で僕の名前を知っているんだい。」
「あぁ~良かった。名前合ってたね‼」
彼女は、自分が正解した事に跳び跳ねながら喜んでいた。
「いや、そうじゃなくて、名前を知ってるのか聞いてるんだよ。」
「皆の名前知ってるよ、ずっと廊下にいるからね、」
「ずっとって、いつから住んでるんだよ、」
その事を質問したら、いきなり静かになった。
「分からない、分からないけど、君のお母さん『明美ちゃん』の頃よりずっと前からかな、」
またまた彼女は、僕を驚かせてきた。母ちゃんの名前を言ってきたからだ。
「君はまた、僕の母ちゃんの名前言い当てた、どうしてなんだい?」
「それは簡単よ、参観日の時も運動会だってずっと、お母さんとベッタリだったじゃない。そのお母さん見て、子供の姿だった頃に出会った少女にそっくりだったんだもん、だから、そのお母さんの子供であるあなたなら、一人の時に私の姿見れるかなって思ったのよ」
なんとも、母ちゃんの名前まで記憶しているとは、どれだけの記憶の持ち主なのか、アッパレである。
「朋美ちゃん近頃見ないけど、どうしたの?」
「母ちゃんは死んだよ。事故で」
「えっ朋美ちゃん死んだの、寂しいなまた、私の事を見るようになるといいなって思っていたのに、」
彼女のニッコリしながら、話す態度にイラッとして、「笑うな」って怒鳴ってしまった。
「ごめん、そんなつもりで笑ったわけじゃないの、ただね昔の思い出がフッと蘇っただけなのよ。」
「母ちゃんの思い出?」
「そう、私オバケだから、物体には触れられないから、いつも鬼ごっことかかくれんぼしていたのよね、そんなことを毎日のように付き合ってくれたの、楽しくて楽しくて」
そうだとは知らずに声をあげてしまった、自分が恥ずかしくなった。「ごめん」僕はうつ向きながら謝った。
「嫌だ、怒られるの嫌いな私を怒るなんて、絶対に許さないから・・・遊ばないと」
そう、理由をつけて、最終的に遊びたいだけなのだ、静かな廊下の中で、隠れる彼女を探す僕、結構な時間が過ぎていた。
彼女の事をやっと探しあて、かくれんぼは終わった!
ズルの中で、これだけ楽しんだのは、久々だ。
いつも、保健室のベッドの中で隠し持ってきた漫画を読んでいるだけだった。
楽しくて楽しくてたまらない。僕は彼女と次の鬼ごっこで、また鬼をさせられて、浮かびながら逃げる彼女を捕まえようとするのだが、私は誰かに腕を引かれた。
眩い光に、何かは分からないが?微かに声が聞えた「行っちゃダメ」それは母ちゃんの声であった。
そこで、彼女の姿を追うのをやめると、今まで美しかったはずの彼女が、背は変わらずゴツゴツとした岩のような体になり、眼と口が黒くゴーオと唸りながら、私の方を立ち止まりながら、じっと見つめていた。
「そっちを見たらダメ、私の方に来なさい」
母ちゃんの声についていきながら、光の穴が見えた、
「ここからは一人だよ、ちゃんと勉強しなきゃダメだよ。」
「かっ母ちゃん、顔が見たいよ・・・」
パンッと背中を押された「かっ・・・」そこは、僕がたたずんでいた。廊下であった。あの湿り気があるいつもの廊下に戻っていた。
どれだけの時間がたったのか教室の時計をみたが、そこには教室を出てから、五分も進んではいなかった。
あれは、夢だったのか、そんなこと考えながら、ポケットに手を突っ込むと何かはいっていた。
掴みきれずに床に落とすと、それは手書きで書かれた手紙だった。
『御守大事にしてね、
いつも応援してるからね、
頑張れ岳』
手紙は、僕が読み終えると共に、光の粉になり消えた。
僕は、教室に戻り「体調良くなりました。」と言うと、皆「ズルしようとした」指でさして笑った。それから僕は、「うっせぇ」おっきな声で騒いで机に座った。
片手をポケットに入れて、不良のマネでもしてると思うが、僕は健康安全の御守を握りしめていた。
「手を出せ・・・」
先生に、丸めた教科書で、頭をはたかれながら、仕方なく手を机に出した。
そして、皆に笑われた。それから僕も笑った。
完
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