私と車のテールランプ


 車に乗るとき、エンジンをかける前にシートベルトをしていないと落ち着かない。


 キーを膝の上に置いてシートベルトをしてから、エンジンをかける。

 たまに、キーがどこにあるのか分からなくなる。



 私がエンジンをかけると、となりの家のおばさんがサッとカーテンをあけてこちらを見てくる。


 監視しているのだ。

 自分の家の車や壁に、私が車をぶち当てないように。


 私は、それを気付かないフリで車を発進させる。砂利道をがたがたと走ってすぐに道路に出る。


 ウインカーを出すと軽快な音が響く。

 それに合わせてひょいひょいと、左右確認をして、左へ曲がる。

 曲がった先のご近所さんが、ほうきを片手に手を振ってくれる。


 優しさの監視。

 笑顔で私の曲がるさまを見ている。



 住宅街を、30キロくらいで走り抜ける。

 ちょうど信号は赤。

 すいっと右に曲がって大通りに出た。


 そこからは直進で、前の車の赤いランプだけ気にしていればいい。

 10分ほど走らせれば、学習塾にたどり着く。

 私はここで、丸つけのバイトをしている。









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