Sweet Valentine

天城ゆうな

ちょっと甘い

 わたしは朝早く、恋人である柏木和也のために、バレンタインチョコを作っていた。本当は、デパ地下の本命御用達ブランドのチョコにしようかと思っていた。が、女性のお客さんの「やっぱり彼氏には手作りですよ」と言われ、手作りチョコにした。出勤準備をする二時間前にチョコは出来上がった。

「後は、これをこの箱に入れて、ラッピングするだけね」

「うう、寒い、ホットチョコレートにしよう」

 ボウルに残ったチョコレートはホットミルクで溶かして、ホットチョコレートにした。ミルクの優しい甘さとチョコのビター感がほどよく混ざり合って、冷えた体がじわっと暖まっていく感じがした。ボウルなどの後片付けを終えると、わたしは、出勤準備をした。チョコレートはラップに包まれたまま、冷蔵庫で固まるのを待っている。

「仕事が終わって帰って来たら、固まってるわね。」

 わたしは、店に出た。店でも、今日と明日のバレンタインの二日間来店してくださったお客様のために、個包装に包まれたチョコを可愛くラッピングして、プレゼントすることになっていた。わたしも玲子ママたちと一緒に、ラッピングをした。

「奈々ちゃん、あんた、彼氏にチョコ渡すの?」

「ええ、今日、出勤前に作りました。今は、冷蔵庫に入れて固まるのを待つばかりです」

「明日はバレンタインよね、彼氏と昼間会うんでしょ?」

「はい」

 玲子ママに聞かれたので、わたしは手作りチョコを渡すことを話した。和也は、一度、うちの店に来てくれているので、玲子ママもよく知っている。店が終わると、わたしは寮に戻り、しっかりと固まったチョコを可愛い箱に入れ、ラッピングした。そして、和也にメールをした。明日、昼間にバレンタインデートをしようと。メールのやり取りをし、待ち合わせ場所と時間を決めると、わたしはメイクを落とし、手入れをすると、早々に寝た。

「今日は、和也とバレンタインデート」

 待ち合わせの二時間半前に起きると、わたしは、シャワーを浴び、冷蔵庫からチョコレートを取り出した。わたしは、髪をゆるく巻くと、メイクをし、黒のニットにブラウンのスカート、黒のタイツ、靴は黒のショートブーツ。コートは同系色のグレンチェックのコート。ネイルは、ショコラブラウンにピンクのラインストーンを根元に付けた。

「よし、準備オッケー」

 わたしは寮を出ると、電車に乗り、池袋に向かった。待ち合わせ場所である池袋駅東口のベッカーズ前、時間は午後二時。東口で降りて、スマホを見た、時間は、待ち合わせ時間の10分前。

「京子!」

「和也」

 東口を出て、ベッカーズ前に向かってくる和也を見た。わたしは、和也の姿を見つけると、手を振った。

「寒いでしょ。中に入ろうか?」

「そうだな。似合ってんじゃん。今日の服」

「ありがとう」

 中に入ると、わたしたちは、コーヒーを頼み、奥の四人がけの席に座った。今日は、和也がシフト休みの日で、わたしが19時からの出勤だ。久しぶりのデート。おしゃれとメイク、ネイルに気合いが入るのは、当然だ。

「どこいく?」

「そうだな、今日は、俺休みだけど、京子は、19時からの出勤だろ?」

「うん、玲子ママに19時からの出勤にしてもらってる」

 わたしが勤めているウェアバウトは、18時から2時まで営業している。今日は、玲子ママに事情を話して。19時からの出勤にしてもらった。

「サンシャインの水族館行って、それから、プラネタリウムに行きたいな」

「いいぜ、ほかには?」

「それぐらいかな」

「じゃ、まず、コーヒー飲んじゃったら、サンシャインシティ行って、水族館とプラネタリウムだな。時間が合ったらショッピングな」

「オッケー」

 わたしたちはコーヒーを飲むと、店を出た。少し歩いてサンシャインビルへ行き、水族館に向かった。すべてのエリアをゆっくりと回り、カフェで軽く食事を取ると、プラネタリウムに向かった。

「綺麗だったね」

「ああ」

 プラネタリウムを出てから、わたしと和也は、色々話をした、内容は、お互いの仕事のこと、昨日見たテレビの話やら何やらいろいろだ。そんなこんなしている間に、わたしの出勤一時間前になっていた。ビルを出て、駅へ向かう道を歩いていた。

「和也、これ」

 駅前の広場でわたしは、綺麗にラッピングをしたチョコレートを手渡した。和也は驚いたような顔をして、受け取ってくれた。

「これ、手作りか?」

「うん」

「開けていいか?」

「もちろん」

「これ、生チョコか?」

「うん、こういうのの方が食べやすいかなと思って」

「食べていいか?」

「うん」

 料理は、よくしているからできるが、お菓子作りは全くの初めて、いちばん失敗のない生チョコを選んだ。食べやすいようにハートの付いたピックを添えておいた。和也はピックで生チョコを一つ刺すと、口に入れた。

「美味い!」

「本当?」

「すげー、美味い、甘すぎず苦すぎずでめちゃくちゃ美味い」

「あーん」

「え?」

 和也はわたしに口を開けるように言った。わたしは一瞬戸惑った。人前であったし、今日はバレンタインだ、とはいえ、ここは、駅前の広場だ。カップルが多いとは言え、ちょっと気恥ずかしい。が、思い切って、口を開けた。

「あ、美味しい」

「だろ?」

 和也は、わたしの口の中に生チョコを入れた。甘すぎず苦すぎずほどよい味だった。一個味見はしたのだが、そのときと同じ味だった。

「ありがとな、京子」

「どういたしまして」

 和也はわたしを新宿まで送ってくれた。女性となって迎える初めてのバレンタイン。とても甘くて幸せなものだった。

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