第4話 小さな悪戯

「それで・・・条件なんだけどなぁ。ある女の世話をして欲しいんだ。」

 安立は煙草に火を付け、煙に目を細めながら切り出した。

「世話・・・ですか?」

「あぁ。簡単に言うと、女を監禁して欲しいんだ。」

「えっ?!!」

 俺は絶句した。100万で監禁の手助けをしなきゃいけないのか?

「近藤ちゃん、冗談だよ。あははは。」

「冗談きついですよ。」

 冗談という言葉にほっとして、俺は安立と共に笑った。

「まぁ、監禁って言うのは冗談だけど見張って欲しいんだ。悪さしないように・・・。要は看病みたいなもんだ。詳しい事はまた話するから、人助けだと思ってその女の看病を頼むよ。ちょっと大変かもしれないが頼むな。」

「はい・・・。」



「近藤さん?お客様がいらっしゃいましたよ?」

 仕事仲間の男に呼ばれ、俺は急いで鍵を開けに玄関へ向かった。入ってきた男は高そうなスーツを着ていた。

「いらっしゃいませ。」

「すぐ打てる?」

「すぐにご用意します。」

 客を部屋に通すと、ソファで待っていた3人の男が立ち上がった。4人の客は部屋の真ん中にある麻雀の卓へ座り、俺はおしぼりを用意して飲み物を運んだ。そこで今来たばかりの客にツマミを頼まれたので、俺はキッチンにいる仕事仲間に声をかけた。

「ツマミを1つ頼む。」

「あ、はい。・・・近藤さん大丈夫ですか?顔色悪いですけど。」

「ちょっと考え事してただけだから大丈夫だよ。」

 仕事仲間の男は心配そうに近藤の様子を窺がっていたが、ツマミを盛りつけ始めた。俺は安立のせいで、今このマンション麻雀で働いてる。この仕事仲間は2か月前に働き始めたばかりで、まだ接客を許されていない為キッチンを担当していた。どうせこの男も安立にはめられたんだろう。人の不幸は蜜の味というが、今の俺には他人の不幸話さえも全く興味がなかった。

 ツマミを盛りつけられた皿を卓へ運び、俺はキッチンの横で煙草を取り出した。サッと横から火が近づけられたが、俺は顔を横に向けて手で追い払った。

「そういうのやめてくれないか?」

「す、すいません。つい癖で。」

 そそくさとライターをポケットにしまい込み、ビクついた顔で俺を見つめる。

「何?」

「いや・・・さっき客に寿司の注文されて、安立さんがついでに俺らの寿司も注文してくれたんですけど、安立さんも手を付けたから食べ残しなんですけど・・・そこに置いてあるんで。」

 冷蔵庫の横の台に置かれた皿をのぞくと、中には半分潰れた寿司があった。どう見てもわざと潰してある。潰れた寿司を食う姿を想像して、安立はどこかで笑っているんだろう。クソ野郎が・・・。

「あぁ、じゃあ頂くか。」

 俺は平然とした顔のまま寿司を丼ぶりにすべて入れ、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて食らいついた。部屋にはガチャガチャと麻雀の音が響いていた。

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