第3話 低迷

 借金してギャンブルをするようになった俺は、金を返す事が出来るのかという不安を全く感じなくなった。いや、不安を感じるのは返済期日の前ぐらいなものだった。金がなくなってきたら貸してくれるサラ金を探せばいいと考えるようになり、普通の金貸し屋では金を借りれない状態になるまであっという間だった。

 その為にそれまで続けていたバイトも辞め、昼間パチンコを打ちに行く時間も考慮して深夜のバイトに変更した。それはキャバクラ嬢の送迎だった。

 勤務を終えたキャバクラの女達を車で家に送る仕事で、店の女は商品だから手を出すなというルールを強いられたが、男を金としか見ないような派手な女には興味が湧かなかった俺には簡単なルールだった。ルールを教えてくれたのは安立と名乗る男であった。

 当時の安立は俺が働いてた店を仕切っていた男でもあり、店の売り上げを集金する男でもあり、泥酔して絡んでくる香水臭いキャバ嬢達の扱いを指南してくれる面倒見のいい男だった。金に困りつつある俺を判っていたのか、女達が出てくるのを待ってる俺に弁当の差し入れをしてくれるような優しい男だったから、尊敬をする程ではないが一目置いていた。


ある日、負け込んだ俺はついに手持ちの金が無くなり、飯をとるか飲み物をとるかの状態になり、給料を前借できないか安立に相談を持ち掛けた。

「ほんと申し訳ないんですが、どうしても困ってて、3万でもいいんで前借できないですか?2万でもいいんですけど・・・」

 苦笑いと媚びを混ぜた顔を見せ、思い切って安立に願い出るとすんなりと返事が返ってきた。

「そうだよねぇ、色々あるからしょうがないよな。100万までだったら出してやってもいいよ。その変わり条件があるけど・・・。」

 出てきた金額に驚いた俺は安立の顔を見つめると、キツネのような鋭い眼光で笑みを浮かべていた。

「ひゃ・・ひゃくまんですか?!」

「近藤ちゃんぐらいの年だと20万30万ぐらい借金あってもおかしくないでしょ。その年でこういう仕事してるんだし。」

 当時俺はまだ23歳で、水商売の女を送る仕事をやるような年齢ではなかった。商品<女>に手を出してはいけないと言われるルールの仕事は、俺みたいな若い奴が基本的にやらせてもらえないような仕事だ。

「そうなんですけど・・・ねぇ。」

さらに苦笑いを浮かべる俺に安立は提案を出してきた。

「やっぱあるんだ。だったらその100万で他の借金全部返しちゃえばよくないか?近藤ちゃんは頑張ってくれてるから、長く仕事してもらいたいし、毎月給料から自分が出せる分だけ返してもらえればいいからさ。」

「いや、でも100万はさすがに・・・。」

「他に借りてる分をそれで先に返しちゃえば、今借りてる分と100万じゃなくて100万だけになるんだし、毎月決められた金額じゃなく、返せる時は多く戻してきつい時は少なくていい。」

 安立は悩んでいる俺の姿をにやけた顔で見つめていたが、持っていたセカンドバッグから分厚い封筒を取り出し、その中から束になった100万を抜いた。

「近藤ちゃん真面目だから信用してるし、気にするな。」

 目の前に差し出された100万。これで他を返済してしまえば、今現在している借金の金額とたいして変わらない。そう思った瞬間に、俺の手は100万を受け取っていた。

 安立は気さくな面倒見のいい仮面をかぶり、「心配するな」と俺の肩を叩いた。

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