第30話 リーダーシップ

なんてことだ。ケイリは俺の剣で自分の腹を刺した! 血が…。 剣は抜かない方がいいだろう。とりあえずポーションを飲ませよう。駄目だ。抜かなければポーションによる再生が出来なくなる。


 何故だ? 俺に剣を使わせないためか? いや、理由なんてどうでもいい、今はケイリを死なせないために俺が出来ることを…。


 無理だ、ポーションだけじゃどうにもならない。確か、カイルのチームに神官がいたはず。アシュリーだっけ…。とりあえず止血しないと。でも、どうやって? 傷口を焼くとか? そういうの詳しくないが多分内臓も出血してるから傷口を焼いても意味がない。とりあえず傷口を毛布で押さえてカイルを探しに行くしかない!


 「カイル、助けてっ! ケイリが危ないんだ!」


 魔物が俺の声を聞いて寄ってくるだろうが、俺ならケイリを抱えても振れ切れる! いや、待てよ。ケイリが単独行動してることは、アシュリーも単独行動してるかもしれない。クッソ、カイルテメェ…。仲間を守るって俺と約束したよな。どうして仲間を1人にした…。


 「アシュリー! 何処だ? ケイリが…!」


 広い。無闇に探しても…。でもやるんだ! 他に方法はない。てか、方法を考えるほどの冷静さ、今の俺にはない。走り回るしかない。


 「ユリウス、どうした?」

 「ケイリが…、アシュリー、早くケイリに回復魔法を」

 「わかった、横向きに寝かせて。メイ、メアリー、魔獣は任せた」

 「わかった」

 「アシュリー、ケイリは大丈夫か? どうしてこんな」

 「カイル邪魔。これは酷い、剣を抜かないと。回復魔法をかけながら剣を抜くしかない。カイル、頼む」

 「あ、ああ。わかった」

 「う…」

 「ごめん、ケイリ、痛かった」

 「カイル、どけ、俺がやる」

 「頼む」


 剣は抜けた、後はアシュリーに任せるしかない。


 「魔力がもうすぐ尽きる、カイル、ポーション持ってるのか?」

 「持ってない。アシュリーがいるからわざわざ薬を持ち歩く必要ないから。ユリウスは持ってるのか?」

 「すまん、先使い切った」

 「誰かが持ってるのか? メアリー、メイ」

 「「…」」

 「ケイリなら、ケイリなら持ってるはずだ。バックを…。あった」


 ケイリは一命を取りとめた。


 「カイルテメェ、どうしてケイリを1人にした。何が遭っても仲間を守るって約束したじゃないか」

 「僕だってケイリを1人にするつもりはなかった。それより、どうしてユリウスの剣がケイリの腹に刺さってた?」

 「俺にも分かんないんだ。獣巨人から彼女を助けた後、ケイリは俺の剣を抜いて自分の腹に刺さったんだ」

 「ケイリが? どうして?」

 「カイル、ケイリはどうしてユリウスの剣で自分を刺さったのか、本当に分からないのか?」


 魔物を片付けたか。


 「メアリー?」

 「ケイリは自分の有用性を証明出来ないからよ」

 「それは分かってる。だからケイリに作戦を任せた」

 「ところが、作戦は失敗した。ケイリは元々自分の成功をすぐ忘れ、失敗を引きずる。自分を認められないの」

 「俺のせいか」

 「それは違う。これはケイリ自身の問題だ。ユリウスが気に病む必要はない」

 「ケイリ…」

 「カイル、悪いことは言わない、ケイリを家に返してやって」

 「メイ…」

 「分かってるでしょ。ケイリは冒険者に向いてない。ケイリはただ自分を証明したいだけ。だから無茶はするし、プレッシャーにも弱い。あくまでも金のために戦う、命を大切にする私達とは違うだ」

 「でも、僕も人々を守る為に無茶をする、命だって捨てられる」

 「ケイリは違うんだ。カイルはケイリを死なせたいのか。ケイリを見て、この血溜まりを見て。それでもケイリに冒険者を続けさせられるのか」

 「カイル、やめさせるべきだ」

 「ユリウス?」


 そう、やめさせるべきだ。カイルの状況とは違うけど、俺は昔仲間を死なせたことがある。ルーキだった頃、俺は最強ルーキと呼ばれたことがある。完全に浮かれてた。そんな時、1人には限界がある、どんなに強くでも数には敵わない、本当に強い冒険者は仲間を率いて連携が取れる冒険者だと言われた。頭にきた。でも、あの時の俺は1人でも問題ないと証明したかったじゃなく、俺だってリーダーシップがあるって証明したかった、だから俺は仲間を募集した。俺は有名だからすぐに仲間が集めた。魔法使い、盾剣士、召喚士、神官とレンジャーを揃った。そして俺は戦わない、指示を出すだけ。これで俺は強い上に優秀なリーダーだって証明できる、はずだった。


 俺は強い、それは知ってる。でも、それはあんまり実感しなかった。俺が簡単に出来ることならみんなも出来るはずだと思った。結果として仲間を死なせった。後悔は死ぬほどしてた。それ以来、何をしてもやる気が起きない。チームを解散して、死ぬ場所を探し始めた。だが、こんな俺でも心配してくれる人がいた。皆を心配させないためにも、俺は普段通り振る舞うようにした。


 カイルが同じ苦痛を味わわないために、メイと一緒にカイルを説得するしかない。

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