第31話 前 夢

「ケイリ、起きたか。本当に無事でよかった」


 私、生きてる。


 「ここは?」

 「宿屋だよ」

 「すごく心配したよ。どうしてあんなことを」

 「クエスト、どう、なった?」

 「ランクアップ出来なかった」


 私のせいだ。


 「カイルは言いたいことがあるらしいよ」

 「メイ!」

 「ちゃんとケイリに言う約束でしょ」

 「分かった。分かったから。ケイリ、落ち着いて聞いて欲しい。やはり、ケイリは冒険者に向いでいないんだ。僕がケイリを家まで送るよ」


 そうか。そうだな。やっちゃったもの。


 「分かった。自分で、帰るから」


 はぁ、この一年間は全部無駄だった。いや、違う。この一年間だけじゃない、冒険者になったからの時間は全部無駄だった。


 なんかどうでも良くなった。あ、私って、空っぽ人間だったのか。夢もやりたいこともない空っぽい人間だったんだね。生きても意味がないんだ、私。どうして死ななかったんでしょ。


 「ケイリ?」

 「うん?」

 「大丈夫?」

 「大丈夫だよ。どうして?」

 「怒らないのか?」

 「怒る? 私が? どうして?」

 「カイル、自惚れるな」

 「違う。ケイリの反応がおかしいんだ。僕には分かるんだ」

 「おかしい?」

 「そうだ。だから今のケイリを1人にできない」

 

 あ、カイル兄さんに見抜かせれた。


 「カイル、お前いい加減にしろよ」

 「私は平気、だよ? さ、カイル兄さん、こんなところで、時間を、無駄にしないで」

 「分かった。ケイリがそう言うなら」


 そうだね。カイル兄さんが心配するよね。こんなところで死んじゃ駄目。カイル兄さんが知らないところで死なないとね。でも、痛いのはいや。剣で刺さるのはすごく痛いんだから。そうね、眠りながら死ぬのが一番だと思う。そうだね、麻酔と毒を調合しよう。アイテムの知識がこんな風に役に立つなんて。もう笑うしかないよね。


 「あはは、あはははは」


 あ、いけない。笑いすぎて涙が出てきた。


 死ぬの? 我が宿主よ。


 私の召喚獣、なの?


 そう。


 何故死を望む。私の力さえあればクエストなんて子供の遊びに等しい。


 召喚獣さんこそ、どうして私と契約したの? 私の体の部位を取ってどうするの?


 どうにもしないよ。ただ、私の力を軽々しく使われて欲しくないだけ。


 そう。今はもうどうでも良くなった。


 そうか。


 出来た。これを飲めば…。何処か静かなところでこれを飲もう。きっと素敵な夢を見れるはず。

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