第18話 宣伝

「どうしてって、ケイリは僕の妹みたいな存在だから、ずっと一緒にいたいから」


なるほど、私、あの日拗ねてから…カイル兄さんの優しさに甘えたから…


「わかった。疲れたから、もう、休む」

「あ、また明日」


また明日、か…明日は、もう会えないよ…早く手紙を書こう。


手紙を宿屋のベットに置いた私は、荷物をまとめてあの店に向かった。


「店主さん、私…」

「お嬢ちゃんじゃないか。どうしたの?」

「店主さん、私…強く、なりたい…っ」


泣きたくなかったのに…それじゃあ、店主さんに甘えてるみたいじゃない…


「事情はイマイチ分からん、詳しく話してくれないかな?」


私は今回のクエストであったこと、カイル兄さんとの関係や思い出、そして、今この胸に抱いている悔しさも、全部店主さんに聴かせた…

私、喋るのが遅いでしょ。でも、店主さんはちゃんと聞いてくれだ。


「じゃあさ、うちに働かない?」

「どういう、こと?」

「ケイリは強くなりたくでここにきただろう? アイテム使いの強さは知識量だ。ここで働いて、もっとアイテムに関しての知識を深めれば強くなれるはずだ」

「なるほど…わかり、ました。けれど、本当に、いいの? 私、遅口ですし…」

「大丈夫、大丈夫」

「店主さん、どうしてこんなに優しくしてくれるの?」

「何度目だ? この質問。まあ、ここで働いたら嬢ちゃんも分かるはずさ」


そして、ここで働いていたら本当に分かった気がする。


この店は何ても売っている。回復薬や、武器、防具、杖や、ワンド。他にも色んなアイテムが販売している。でも、ここはただ、薬も販売してる武具屋として認識されているんだ。

私も僅かな勇気を振り絞って、お客様にアイテムを勧めたけれど…無視されるだけ…あとナンパは嫌い。

お客様は装備と薬を買いたくてここに来た。予算外の出費は避けたいものだからかな…たまにワンドを買いに来る魔法使いもいないわけでもないけど…

店主さんが店舗所有者だし、装備と薬はそこそこ売れているからなんとかなれたけど、やはり誰かがアイテムを買って欲しい。店主さんが自分で作ったアイテムだって少なくないし。


時々思うんだ、誰かに無料でアイテムをあげるのはどうかなって。使いそうって分かってくれれば買いに来るかもしれないし。使ってるところが見られたら、いいなぁと思ってアイテムを買いに来る人もいるかもしれないし。


あ、だから店主さんは色んなアイテムを貸してくれたか…よかった、やっと優しくされた理由がわかった。


「店主さん、やはり、宣伝が大事、ですか?」

「ああ、そうさ。いくら優秀なアイテムでも、知ってもらわなければ意味がない。例えば、お嬢ちゃん、捕獲クエストでどう捕獲目標を捕まえるつもり?」

「ええと、粘着ボールで、足止めして、特製睡眠薬で、眠らせる。大型生物用の、縄で、縛ったあと、専用の、えーと、剥がし液で、粘着液を、取り除けば、いいでしょ?」

「そうだ。そんな簡単なことなのに、他の冒険者はわざわざフォーメーションで囲め、魔法使いで眠らせるんだ。だから、捕獲クエストは催眠魔法が使える魔法使いがいなければ、無傷で捕獲なんてほぼ無理なんだ」


催眠魔法か…メアリーさんは使えるのかな? メアリーさんが酸魔法以外の魔法を使うところを見たことがない。そう考えると、本当に便利だね、ヒバリさんの召喚獣は…


「アイテムを使った方が便利なのに、使う人がいないんだ」

「どうして、ですか?」

「それはさ、才能がある人が冒険者になるからさ。剣、魔法、召喚獣。才能がない人は最初から冒険者になろうなんて思わないからだ。だから、冒険者は皆、自分の才能しか頼らないんだ。そんな彼らは得体の知れないもの、アイテムに頼ると思うか?」

「それは…ではどうして?」

「うん? あ、どうしてアイテムを作るか、だな」


え、まだ言ってないのに通じだ…


「冒険者だった頃は強くなりたくでアイテムを研究し始めた。すっかりハマっちゃってさ。冒険者もやめてた、アイテムを研究するために。金を儲けるために研究したわけじゃないけど、せっかくこんなすごいアイテムを作ったんだ、当然売りたいだろう。でも知ってる通り、全然売らなかった。が、最初から金を儲けるためにアイテムを作ったわけじゃないから、今も研究と改良をし続けるつもりだ。おっさんは嬢ちゃんみたいな、アイテムに興味を持つ冒険者をずっと待っていたかもしれない。だから嬢ちゃん、ちゃんと他の冒険者に見せるんだよ、アイテムの有用性を、アイテム使いの戦いを」


この一年間、私は店主さんから色々学んだ。アイテムの作り方、素材の集め方、魔法の言語とか色々。間違いなく、私は強くなった。けれど、私だけではなく、カイル兄さんもきっと強くなったはずよ。もっと、強く… そう、強くにならないと。でなければまた足を引っ張ってしまう。


そうね、一年前に、メイさん、カイル兄さんと私三人で倒した、あのダンジョン主を一人で倒さなければ。



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