クリスマスイブ

@121030dabiel

いつかの風景

これは北海道C市××町のアパートの一室の住むとある老人の話である。


老人の名は佐々木 国光。私達家族は国ちゃんと呼んでいる。私と彼が知り合った経緯は知らない。ただ父と国ちゃんは旧友で物心つく前から度々父に連れられていつのまにか家族ぐるみのお付き合いをしていた。

見た目は皮と骨だけのような痩せ細った身体で獅子を連想させるような白髪頭と白い髭を蓄えながらも目つきはとても穏やかだった。

中学の頃、通学路の途中に国ちゃんの家があったので親に車で迎えに来てもらうべく電話を借りに足繁く通っていた。国ちゃんは二羽のセキセイインコを飼っている。雄のチッチと雌のピッピである。二羽とも良く国ちゃんに懐いていた。最初のうちは警戒されたが数日のうちに私の方へ寄ってくるなどなかなかに人懐っこかった。だが二羽のインコが暮らす国ちゃんの家はまさにゴミ屋敷と呼ぶに相応しい散らかり具合だった。ビールの空き缶にタバコの吸い殻、インコの糞に餌、おまけ紫煙が漂っていてまともに生きすら吸えない。こんな所にいてはインコもそうだが国ちゃんの体調に不安になるばかりである。後に父から聞いた話だが国ちゃんは自分の家族と縁を切り、長い放浪の末にこの町へと身を落ち着かせたのだという。だから国ちゃんが知りうる血の繋がった家族はいないし、いたとしても先方は国ちゃんのことを知らない。しかも国ちゃんは70代でもちろんだが肉親はもうすでに他界している。

そして国ちゃんは食料を買う時や銭湯に行く以外はこの家から一歩も出ないのだという。つまりインコが国ちゃんにとっての家族でこの家に国ちゃんの全てが詰まっていた。

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