閑話 奴隷商人の顛末①
「おのれ、カーロッタにルーシヴィアめ。奴隷の分際で私の顔に泥を塗りおって!」
恩を仇で返すとは所詮は畜生風情か。
領都ルシュタージュ——帝国では単に北方辺境都市と呼ばれることが多い——の奴隷商人アルノーは、憤慨していた。
手塩にかけて育てた獣人奴隷に逃げられたからだ。
コストをかけた商品の損失だけでも大損害だが、それ以上に問題だったのが、その商品がすでに予約済みだったことである。そして、その出荷を直前に控えての事件であった。
「会頭、ルブレスタ辺境伯から詰問の使者が来ておられます」
「くそが!」
顔を青ざめさせた部下からの知らせに、思わず悪態をついてしまう。
——それもこれもあいつらのせいだ。
奴隷狩りから
アルノーには人を見る目に自信がある。この眼力でもって、なりあがってきたのだから、その自負は大きいものである。ある種のスキルだと本人は思っていたが、鑑定をしたことはない。情報漏れを恐れたからだ。
そうして、安い奴隷を目利きでもって買いたたき、教育を施して高値で売りさばく商売によって、成功を収めてきた。
その中でも、カーロッタたちは目玉商品として、大商いをする予定だった。そして食いついたのが、なんと辺境伯という大物である。御用商人の話まで出たのだから、アルノーの喜びようは周囲が引くほどだったという。
だからこそ、アレの脱走は青天の霹靂だった。
「身の程を知らぬ家畜どもめ。生きていれば、その罪を体に覚えさせたものを」
できれば生きたまま捕えたかったが、あの不毛地帯に逃亡してからずいぶん経つ。もはや生きてはおるまい。もちろん、周辺の村落にも手のものを向かわせてあるから、死亡は確実と思われた。
「会頭、いかがなさいましょうか」
部下の再びの問いかけに夢想を頭から取り払う。今は、辺境伯への対応が急務である。すでに商品は紛失した。目玉商品こそなくなったが、ほかにも商品はある。
賠償として商品が何人分必要になるかはわからないが、交渉するしか活路はなかった。
しかし、使者に会うと、そのまま辺境伯の居城へ釈明するように申し付けられる。
「準備の余地すら許されぬとは。辺境伯はそれほどお怒りか。いや、それほどのやり手ということか」
「私の口からは答えかねます」
使者は何も答えない。断頭台に行く面持ちでアルノーは城へ赴くのだった。
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