第13話 思案するジューコフ
STAFKAの執務室でジューコフは物思いにふけっていた。
『私も
赤軍入りを希望するカーロッタの申し入れは、正直嬉しい気持ちはあるにはある。しかし、同時にこうも思うのだ。
「私の力で彼女たちを守れるのでしょうか」
赤軍というのは一つの巨大な官僚組織である。
そもそもからして
スターリンへの個人崇拝が確固たるものである以上、内憂こそないが激しい派閥争いが日夜行われていた。あまり大きな声ではいえないが、ジューコフもスターリンに気に入られるために何もやらなかった、とはいえない。
ゆえに、敵も多いのだ。
軍人たちでいえば、ヴァシレフスキーは信用できる。可愛がってもらったトハチェフスキーやフルンゼといった古老たちも大丈夫だろう。赤色空軍もおそらく。
だが一方で、赤色海軍は――。
「やめておきましょう。彼のことを考えると気分が暗くなります」
この場にいない海軍のトップを思ってため息をついた。
とはいえ、曲がりなりにも軍の頂点にいるジューコフに逆らうものなどそうはいない。
しかし、ジューコフの知り合いは高級将校ばかりが多く、末端までは手が及ばない可能性があった。カーロッタが入隊した際、兵卒からだろう。
トップには大元帥がいて、その下の人民委員がソ連邦元帥の地位についている。さらに、上級大将、大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、曹長、軍曹、伍長、兵長、兵卒と続いている。
階級が離れすぎていて目が届かないことをジューコフが恐れた。
別に、私刑を危惧していはいない。そのような共産主義的精神を持たないものなどソ連にはいないと信じているし、実際そうだ。とはいえ、政治的陰謀はジューコフの得意とするところではなかった。
人民委員会議でベリヤと敵対することになったのは不味かったかもしれない。
ジューコフを敵視する者は多いのだ。カーロッタ達は確かに大事に思っている。
「私の足を引っ張るようなことを許してはいけません」
一見優し気な表情を浮かべたジューコフもまた、典型的なソ連軍人なのであった。そこに、慌てたような足音が近づいてくる。
「同志ジューコフ!」
「貴女が慌てるなんて珍しいですね。なんでしょうか?」
飛び込んできたヴァシレフスキーの報告を聞いて、ジューコフはめまいがした。
「ルーシヴィアが同志書記長に直談判しました!」
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