第14話 ルーシヴィアの直談判

 クレムリン大宮殿内にはいくつも食堂があるが、要人しか使えないものもいくつかある。その中の一つで、3人で食事していた。

 いつもは一人で護衛に囲まれながら食事をしていたので、寂しかったのだ。だから、僕から誘ったのである。だって、ほかのNPCは恐縮して断ってくるんだもの。強引に命令するのも旧世紀に流行ったというパワハラみたいでいやだしね。



 その点、原住民の2人には何の利害もないから、気安く誘えていいよね。でもやっぱり生身の人間は緊張するなあ。NPCでさえいまだ慣れきっていないから、よい訓練だと思うことしよう。

 うーん、現実では栄養ブロックばかりだったし、ゲーム内では食事は消費アイテムの一つで味覚なんてなかったし。


 おいしけれどさ。それにしても西洋風の食事ってマナーが大変だなあ。ちょっと顔をしかめても仕方ないよね。


「ッ!」

 

 おいしいといえば、EWCのみんなは元気かなあ? ひょっとしたらこっちに転移してきてるんじゃないかと、電波基地から通信を試みているけれどまったく応答がないんだよね。と、いうよりも電波そのものも飛んでいない。

 宿敵だったフランクサンとか居たら心強いんだけれど。いや、ぶつかり合ったら困るかもだけれど。


 まあ、無線封鎖する必要がないから助かるとジューコフは喜んでいたし、やっぱり遅れている世界なんだよ。



 演説は多方面に影響を及ぼした。

 軍からは引っ切り無しに命令書の署名が要請されるし。紙にペンで書くとか初めてだったよ。もう自動人形オートマトンじゃなかったら、腱鞘炎になるんじゃないかってくらい。

 官僚からも修正第82次5か年計画についてプレゼンされるし。だから、子どもの僕にはわからんってば。適当にうなずいてサインしたけれどさ。



 ふう。おいしかった。目の前には緊張した風な姉妹がいる。先ほどから妹の方が何か発言のタイミングを待っているのは気づいていた。けれども、食事中はしゃべってはいけないというマナーが知識にあったので、黙って食べていたんだ。



 ぎこちないながらも、マナー通りに食べようとしているルーシヴィアを好ましく思う。カーロッタは、まあがんばってとしか。

 コトリとナイフとフォークを置く。


「うんうん、それで話って何だい?」


「その――私たちも赤軍に入隊したいんです!」


 へ?


「徴兵するつもりはないよ?」


「志願兵としてです」


 と断言するルーシヴィア。隣をみると同様な表情をしているカーロッタがいる。


「きみたちには、とても貴重な情報をもらったんだ。そう、宝石よりも貴重なね。だから、気にせず一生安寧に暮らしていいんだよ?」


 僕だったらそうする。


「あ、ありがとうございます。でも、同志書記長の演説を聞いて思ったんです。私たちのような思いをしている人を少しでも早く救えたらッて。私のいた奴隷館にだって助けたい人がいっぱいいるんです」


「私からもお願いします!」


 頭を深く下げるルーシヴァアと、じっとこちらをみつめるカーロッタの姿に二人の性格が良く出ているな、と思う。でもなあ、EWCでも志願兵制度はあった。

 ソ連の勢力固有スキルにより、敵地にパルチザンが沸くんだからと、彼らを直接雇用できたんだよね。志願兵の主な供給源なのだけれど、凝り性だった僕はそれを一切していない。

 すべて全員一から錬金術で創造している。だからまあ、100万人そろえるのに400年かかったんだけれど。


 

 もう一つ問題がある。こちらの方が大きいかもしれない。


 ――少年兵制度ってないんだよね。


 そんな教育に悪いものあるわけないじゃん。だから、見た目通りの少女でしかない彼女たちを雇用するのはちょっとね。危険な戦場に送るとかやめて欲しい。


「志願兵制度はあるにはあるけれど、一度も使ったことないしな。それに一兵卒からのスタートだと大変だよ?」


「奴隷を強いられるより、望んで兵隊として戦いたいんです!」


「……うーん、ちょっと考えさせてほしい。少し休憩しておやつの時間にまた話そうか」


 そう言って僕は時間を稼ぐのだった。

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