第12話 トロツキスト
「さすがはわが
「素晴らしい演説でした! 私が間違っていました。軍部は全面的に支持いたします。
「軍はすでに即応体制ですから、いつでも進軍は可能です。差し当たり同志ブジョンヌイ大将が偵察を進言しております。機械化部隊より騎兵の方が発見されても違和感がな少ないでしょう。それに、彼女なら張り切って偵察してくれるでしょうね」
興奮も冷めやらないまま、スターリンに詰め寄るモロトフやジューコフ達。
いつの間にかベリヤも姿を消している。内務人民委員も務める彼女は、ソ連で一二を争うほど多忙だ。
それを背にトロツキーは会議室を去った。彼女の傍には補佐官が控えていた。
どんなに絶望的な状況でも諦めきれなかった世界革命計画が始動しようとしているのだ。彼女としては笑いが止まらなった。転移を一番喜んでいるのはトロツキーだろう。
これから我が世の春を謳歌するのだ。
もちろん、まだ世界の情勢は依然不透明であるが、彼女はおのれの才覚を信じ切っていた。なんなら自身が潜入工作をしたってよい。旗揚げ当初からスターリンとともに駆け回ったトロツキーにとって、ゼロからのスタートなど何ら障害とは思っていない。
後期から加わったジューコフたちは今の強大な祖国しか知らないから、慎重になっているのだろう。それはわかっているが、前衛政党として、革命を主導する党としては正しくない。いや、美しくないと思っていた。
彼女の居室はモスクワ市内にあるが、状況が状況だけに幹部はクレムリン内に寝泊まりしている。
苛烈な意思をもって、トロツキーは悲願達成のために突き進むだろう。
計画はすでに胸の内に練ってある。
あたりを見渡し、盗聴器や盗聴魔法が隠蔽されていないか同志たちと確認する。NKVDに少数派としてマークされていることを彼女たちは熟知していた。
拠点ではない以上、細心の注意が必要であることは言うまでもない。
「同志トロツキー、周辺の安全を確保しました」
「よくやったわ、同志シルヴィア」
孤立気味のトロツキーに付き従う者たちはトロツキストと若干の揶揄を込めて呼ばれている。そんなトロツキストの中でも、特に信頼を寄せていたのが、シルヴィアとメルカデルであった。
美少女のシルヴィアと
さしもの彼女も、最側近のシルヴィアたちには口が軽くなる。自らのプランを自信満々に語るのだった。メルカデルもいつもの気弱そうな雰囲気をそのままに、姉の影に隠れている。
――彼の真の主はルビヤンカにいるというのに。
どこかで丸眼鏡が嗤った。
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