第9話 革命戦士
「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処すればよいだけのこと」
「要するに行き当たりばったりじゃないの」
ジューコフの補佐として付き添っていたヴァシレフスキーが皮肉る。ジューコフと大親友の彼女は、自らの意見というよりも、ジューコフの意見を通すために行動することが多い。
その後、生真面目なジューコフに代わって、皮肉屋で弁の立つヴァシレフスキーとトロツキーの応酬が続いた。
(うーん、別に戦争でいいんじゃない?)
ゲーム感覚が抜け切れていないスターリンにとって、索敵エリアゼロからスタートすることは開始時点では当然のことであった。400年鍛えたソ連の国力はサーバーランキングでも
周辺を掃討した際のモンスターがさほど脅威ではなかったこと。ルーシヴィアの知識を信じるのなら、
まだ話を聞いただけで判断するのは早すぎるものの、
クルチャトフが何度も何度も推測に過ぎないと念押しをしていたのにも関わらず。
このあたり、
ちなみに、クルチャトフはこの場にいない。彼女は何時ものごとく
『
そう宣言してからずっとである。すでに髪は床を引きずるまでになっていて、悪乗りしたスターリンは十二単を着せていたりする――そういう設定だった。
尤も
この設定を選択する者は少なく、不人気サーバーだったため過疎化が激しかった。だからこそ、スターリンはぬくぬくと400年間以上も建国プレイを楽しめたとも言える。
リアルと言えば聞こえばよいのだが、ゲーム的親切要素がないため
変人集団として
――そう。核兵器は削除されていたはずなのだ。近い将来スターリンは仰天することになるのだが……。
なお、十二単は本人からはすこぶる評判が悪かった。重いし着づらいよね。
「この世界に不案内だというのなら、現地調達すればいいのですわ」
トロツキーの眼が怪しく光る。
「革命を輸出するというのは、何も私たちが矢面に立つなんてありませんもの。そうですわね、ベリヤさん?」
「……その通りねえ。なるほど、これは
トロツキーの意図を察したベリヤがすかさず応じる。なにせ彼女は、諜報のスペシャリスト。現地民を協力者に仕立て上げるのは容易かった。姉妹の情報からも言葉が通じて、常識もある程度共通しているのだから、猶更である。
転移という異常事態に遭遇していて、孤立無援の状況から無意識に選択肢から外してしまっていた。
「では、第一号としてカーロッタちゃんを革命戦士にしてあげましょう。いいモデルケースになるでしょうねえ。うふふ、腕が鳴りますわあ」
いつものニヤニヤ笑いを深めてベリヤが言うと、周囲からも賛同の声があがる。
「ま、待ってください! 幼い少女を洗脳するなんて、許しまわせんよ!」
「洗脳なんて聞こえが悪いですな。ちょっとした
ベリヤの補佐官であるエジョフが反論すると、他の面々も賛同し始めた。ソ連に被害がでそうだから戦争に懐疑的だったのであって、
確かに同情はしていたが、最高幹部である以上国益を優先するのは当然である。尋問するのが可哀そうだと思ったのも、保護する対象としてしか見ていなかったからだ。ソ連人は甘くない。
議論はいよいよヒートアップする。
「ちょっと頭冷やそうか」
一気に旗色の悪くなったジューコフたちが顔を青くし必死に反論する中、ようやく一人の男が声を上げた。
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