第8話 高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にうんたらかんたら
「面白くなってきたな」
誰とも知れずつぶやく華やかな美女。
その長身と背をうねるブロンド、意思の強い空色の瞳。
差し詰め、裁きの天使とでも表現できようか。
革命戦争初期は軍事に外交にと八面六臂の活躍を見せた彼女だが、思想的な対立から失脚していた。
軍事ではジューコフに、外交ではモロトフにその座を奪われてしまったのだ。スターリンへの忠誠心はあるにはあるが、それとは別に『革命の輸出』にかけては人一倍熱心だった。
ソ連旗揚げからの最古参である彼女がいたからこそ、
その名を――トロツキー
スターリンがフレーバーとして史実のような設定をつけたところこうなった。現在は財務人民委員として辣腕をふるっている。
失脚後に戦功をあげて、不死鳥のごとく舞い戻ってきたのだ。それゆえに、他の幹部からはやや距離を置かれている節がある。だからこそ、この状況を好機と捉えていた。
議論を微笑みながら黙って見守る。華やかな美人だけに、異様なオーラを纏っていた。臨席するスターリンはその存在感にビビっていたが、幸いなことに誰にも気づかれなかった。
鋼鉄の男のアバターだからという理由もあるが、もし彼が見っともない醜態を晒しても全肯定されていただろう。が、転移直後の本人に気づく余裕はなかった。
だから、必死に外面を取り繕う。
だから――。
「あの哀れな少女たちを救いましょう」
議論が尽きたころを見計らいトロツキーは発言した。さも同情した風を装って、モロトフたちを支持する。全員がギョッとした表情を浮かべる中、彼女はただ一点、
そして、長広舌をふるう。役者のような大仰な振る舞いと美辞麗句に包まれた演説だが、その目論見はただ一つ。革命を輸出することに尽きる。彼女の悲願を実現せんと、この機会を利用しようとしたのだ。
姉妹を救うことについては同意していた面々も、さすがに革命を輸出する――つまり、まだ見ぬ世界相手に大戦争をしかけるつもりなどなかったのだから、あわてて止めようとしたが、遅かった。
「――同意いただけますよね。同志書記長」
だから――演説に感銘を受けた
「ま、待ってください! まだ世界情勢はわからず、戦力だって不明なんです。いまから戦争計画を立てるなんて無茶ですよ」
「
「だからって、勝手が違いすぎます。戦争には綿密な準備が必要なんです。そうですよね、同志書記長?」
「う、うむ。そこのところどうなのだ?」
途中まではトロツキーの発言に頷いていたものの、軍事的な話になって
まだ何も分かっていないのに戦争準備だんて冗談ではない。
「あら、簡単よ」
それに対して、トロツキーは事も無げにいった。満面の笑みを浮かべて自信を込めて断言する。
「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処すればよいだけのこと」
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