閑話 レーション料理文化
口さがない人間は、ソ連の料理はまずいという。
その最たる例が、レーション料理だ。
食料不足の時代、レーション(軍用食)が主食だった。レーションは栄養バランスに優れた食料セットであり、建国期の食糧危機を救った。
本国で大量生産されたレーションは、新たなソ連人の胃袋を完全に満たすことに成功したのである。
が、その味は現代人にとって、お世辞にもおいしいとは言えない。
しかしながら、食糧難の時代において、砂糖やチョコレート、肉、野菜、米、クラッカーなどがタダでいくらでも手にいれることができた。
飢えに苦しんでいた当時の人々にとっては、非常に「豪華な」食事だったようである。
レーションはごちそうだったのだ。
時代が下り、食料不足が改善されていくと、味が気なるようになってきた。
そこで、まずいレーションをどうにかしておいしくしようと、様々な工夫が試された。これが、今日まで続くレーション料理である。
飽食の時代となったいまでも、レーション料理は脈々と受け継がれている。家庭料理として、郷土料理としてふるまわれている。
食糧難の昔を懐かしむ老人。食料不足ではなかったが、家でレーション料理を食べて育った若者たち。
それぞれ理由は違えど、ソ連においてレーション料理は愛されてきた。
他国人の言う通り、レーション料理は決して美味ではないだろう。しかし、その裏には、ソ連が歩んだ苦難の歴史が確かに刻まれているのである。
「レーションを笑うものは、レーションに泣く」
ということわざは、いかにソ連人がレーションを愛しているかを示している。 ひもじいとき、苦しいとき、レーションがいかに多くのソ連人を助けてきたか。
だからこそ、まずいからといってソ連人はレーションに限らず食料を粗末にしないのだ。
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