第2話 異世界人との遭遇2

「落ち着いたかしら?」



 安心させるように笑みを浮かべる美女――リディアに声をかけられた。

 さっきまで ”れーしょん” という食べ物(ビスケット、塩、ジャムそしてちょこれーと!)を夢中になって貪っていたことを恥じる。お替りまでしてしまった。

 でも、仕方がないだろう。カーロッタとルーシヴィアにとって生まれて初めてお腹いっぱい食べたのだ。しかも、初めて見るごちそうである。きっとあのいけ好かない奴隷商人だってちょこれーとを食べたことはないのではないか。



「あら、レーションは口に合わなかったかしら? ごめんなさいね。今は軍用レーションしか備蓄がないのよ」


「そんなことないです! こんなにおいしい食べ物は初めてです!」


「……私は生まれて初めてお腹いっぱい食べた」



 カーロッタとルーシヴィアが興奮して詰め寄る姿に、リディアは目を丸くした。あの堅くてまずいビスケットと甘いだけのジャムとチョコレートで喜ばれるとは思いもよらなかったからである。

 そもそも、永久魔導式ホムンクルスで構成されるソ連人は食事を必要としない。娯楽として、贅沢として好きなものをたまに食べるくらいである。

 中には、料理に楽しさを見出す者もいる者もいて、リディアはその一人だった。


 ちなみに、レーションはゲームで敵軍から奪った物資であり使い道がなく大量に死蔵していた。日系スターリンはもったいない精神の持ち主なのだ。ちょうどよい使い道ができたなと心にメモしておく。



「いつか私の料理を食べさせてあげるわ」



 メインはボルシチで、ピロシキにカーシャなんてどうかしら?と嬉しそうにリディアは料理の名前を上げていく。

 姉妹にはそれが何の料理かまでは分からなかったが、ごちそうを想像しているのか目を輝かせている。



 よほど食べ物に困っていたのだろうとリディアは思う。ホムンクルスは、魔力が欠乏すると空腹を感じることもあるが、体調を崩すほどの経験はない。

 いまだ姉妹の置かれた状況については断片的にしか分からないが、その粗末な服、痩せ衰えた体、ところどころに鞭で打たれたような痕まであった。

 落ち着いたところを見計らって、話しを聞いてみる。





「――それで奴隷商人からルーシヴィアを連れて逃げ出してきたんです」


「そうだったの。今まで辛かったでしょ。偉いわ」



 リディアは命令に忠実な典型的なソ連軍人である。


 初めて接触した異世界人を友好的に連れてこいと言われて、可能な限り親身になって接したつもりだった。

 この姉妹をソ連本国に連れて帰れば、自分の功績になることは間違いない。ひょっとしたら、スターリン直々にお褒めの言葉を貰う可能性だってある。



 リディアは共産主義を信奉する典型的なソ連軍人である。


 姉妹の話からこの世界は王侯貴族が蔓延る前時代的な世界であると判断した。階級闘争を通じて共産主義の理想を広めるいい機会であるとも。

 軍人としての冷静な思考は、姉妹をいかに利用し国家に最大限の利益をもたらすかを計算する。



 だが、それだけではなく姉妹を助けてあげたい。彼女たちを抱きしめながら。そう、思った。



「さて、僚機が周辺の索敵も終わらせたようだし、一緒に行きましょう」


「……行くってどこへ?」


「ふふ、それは行ってからのお楽しみよ」



 短い間ですっかり懐いたルーシヴィアの疑問に、リディアは茶目っ気たっぷりに応えた。

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