第1話 異世界人との遭遇1

 雪原を進む人影があった。二人の幼い少女が手を取りながら歩んでいく。一面雪だけが広がり、生物は彼女たちだけだった。ただ、その足跡があるのみである。



「はあ、はあ」


「頑張って、ルーシヴィア」


「……お姉ちゃん、ごめんね。私、足手まといで」


「そんなことない!」



 妹の弱音をきっぱりと否定する姉――カーロッタは、必死でこの状況を打破しようと考えを巡らせていた。

 奴隷商人から辛くも逃げ出しもう一週間ほどたつ。逃げたはいいが行く当てのなかった彼女たちは、追ってを振り切るために、不毛の雪原へとあえて歩をすすめた。


 たしかに追っ手をまくことには成功したかもしれない。けれども、人跡未踏の雪原で生きていく術のない姉妹に待つのは、緩慢な "死" だった。



「お姉ちゃんが何とかするから、だから悲しいことを言わないで……」


 ぎゅっと妹を抱きしめる。と、そのとき聞いたことのない甲高い音が聞こえてきた。


「お姉ちゃん、あれ!」


 ルーシヴィアが指さす方向をみる。空だ。


「な、何あれ……大きな鳥?」


 震えながらカーロッタは声を絞り出す。見たことのない鳥が四羽、物凄い勢いでこちらに近づいてくる。



「逃げないと!」



 けれども、二人は動けなかった。もう体は限界だった。そこに、さらに追い打ちがかけられる。

 雪原に隠れていた大きな影が、こちらへと歩み寄ってきたからだ。



「そんな、雪巨人まで」



 絶望とともにカーロッタはルーシヴィアを抱きしめる。ルーシヴィアも、姉を抱きしめた。

 もはや肉食の恐ろしい雪巨人に食べられる未来しかなかった。ところが、何かが轟音をたてて向かってくる。

 それは、あの鳥だった。ダダダダダという独特な音とともに、死を運ぶ雪巨人は血を吹いて絶命した。


 瞬く間に、雪巨人に食われる未来は去った。けれども、次は怪鳥に食べられるだけだろう。雪巨人を一瞬にして血祭にあげた怪鳥は、雪巨人よりも恐ろしかった。

 震える体を抱きしめて、最期の時を待っていると、大きな鳥のうち一羽が近くへと着陸した。何やら様子が変だ。



「あれ? 人が出てきた!?」



 驚いて硬直する姉妹に、笑顔を浮かべて手を振りながら、鳥の中から出てきた女性が近づいてきた。


「怪我はないかしら?」


「え? えっと、はい。助けてくれてありがとうございます?」


 混乱しながらなんとか返事をすると、女性はよかったと破顔した。


「私は、リディアよ。お名前を聞かせてくれるかしら?」


「カーロッタです」


「……ルーシヴィア」


 事態が呑み込めず、間抜けな顔をしながら自己紹介をする。そのとき、ぐぅ~と音が鳴る。緊張が解けて、空腹を思い出した。

 あら、気づかなくてごめんなさいね、とリディアは言うと、何か四角い物体を取り出した。



「これ、軍用のレーションしかないんだけど、いっしょに食べましょうか」



 このときの食事を、姉妹は生涯忘れないだろう。

 まずいレーションでごめんねと、リディアは言うが、空腹であることを差し引いても、とんでもなく美味だった。

 特に「ちょこれーと」というデザートは姉妹の大好物となる。

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