第二十五頁 本物の一撃
「よくやった! ポロン! 今、治してやるからの」
「ぜえっ……ぜえっ…足がっ足があ……」
現れたのはソフィとポロンであった。
ポロンは息を切らしながら下半身全体の痛みを訴え(足と言っているが下半身全体の痛みだとソフィは正確に理解していた)地面を転がっていた。
ソフィがポロンの下半身を治癒魔法で治す。
「はあっ……はあっ……はあっ」
ソフィの魔法で痛みは落ち着いたらしい。
「ソフィ……?」
シロと入れ替わったレルが信じられないといった表情でソフィを見つめる。
「レル、お主もよくがんばったの」
ソフィは微笑をレルに向けた。
「……そうだ、ソフィ、これ」
ついさっき交代する際、シロがソフィに渡してくれと頼んだ白い石を渡す。
「ありがとう。確かに受け取ったぞ」
大事そうに白石を受け取ったソフィはしばらくして渋い表情をする。
「神格の顕現か……何を司っておるじゃろうか……いや、状況から考えるに疑似神格じゃろうな」
ソフィは立ち上がった悪魔を見つめて呟いた。
「Gyaaaaaaaaa!!!」
その叫びは怒りの咆哮だろうか。
間違いなく機嫌は悪いだろう。
悪魔はソフィに狙いを定め殴りかかる。
ソフィは悪魔の行動など気にも留めず右手を真上に掲げて呪文を紡ぎ始めた。
『穢れよ。わが血潮』
右手に無数の魔方陣が現れる。
「Gya!?」
その衝撃で悪魔は再び吹き飛ばされてしまう。
『祖が生みし大いなる神槍よ』
ソフィの手中にぼんやりと槍のような形をした光源が現れる。
『貫く全てを無に帰し』
魔方陣が高速回転し始め光が強くなる。
「Gyaaaaa!!」
悪魔は本能に従いソフィの詠唱を邪魔しようとするが近づけない。
『創造への礎とせよ』
光がはっきりとした槍の形になる。
『
最後の一説を唱えた瞬間、光と魔方陣の全てが弾けた。
手中に召喚した自身の体よりも大きい神槍を握り上空に掲げた右手を振り下ろす。
その姿は神々しく見えた。
ソフィは悪魔を見つめる。
睨んでもいないにもかかわらず悪魔の本能は警鐘を乱打した。
恐怖を感じたのだろうか。
知性無き悪魔はその本能に従い逃亡を図る。
「逃がすと思うたか?」
悪魔の周囲に〈大地の剛剣〉を放ち逃げ道を絞る。
もはや正常な判断ができない悪魔は唯一の逃げ道である上空へ方向を変え翼をはばたかせた。
勿論、これはソフィの誘導である。
ソフィはまんまと誘い込まれた悪魔に狙いを定める。
「穿てッ!」
彼女は神槍を投擲した。
「Guaaaaa!!」
様々な魔法を駆使して放たれた神槍は高速で正確に悪魔を襲った。
しかし槍は同様に神格を持つ悪魔に穂を抱え込むような体勢で柄を掴まれ貫くには至らない。
それでも驚異的威力によって悪魔は遥か上空に飛ばされた。
それを見届けたソフィは右手を上空に上げ。
「爆ぜよ」
パチンと指を鳴らした。
その直後、花火も真っ青の大爆発が起こった。
いくら神格を持ったとはいえ正規の取得方法でない疑似神格だ。
贋作が本物に劣る道理は無いが上澄みの力である悪魔の神格と神格を活かすために作られた神槍で比べれば前者が劣っているのは明白だ。
それ故、本物の神格を持った〈原初型神槍梵天槍〉の爆撃を防ぐことは不可能であったのである。
悪魔の身は全て焼かれ灰すら残らなかった。
上空から一直線に向かってきた槍を慣れた手つきで受け止めると、召喚した神槍は消滅していった。
「フハハッ! 流石は
上空で笑うのは祠でソフィと対面したフードの男であった。
「だが貴様は致命的なことを忘れている。さあ行け! 最後の足掻きだ!」
彼の横を何かが通った。
それはもう一波乱を起こす予兆であった。
「終わったのか?」
「凄い……」
あっけにとられる二人にソフィが右肩を回しながら歩み寄ってきた。
「ふう、予想外の強敵じゃったの」
「本当にそう思ってるのか?」
今の圧倒的な倒し方を見ればそう思うのも不思議ではない。
「うむ。疑似的とは言え神格を得ていたからのう。わしとて倒す手段はかなり限られておった」
ここでソフィは何か引っかりを覚えた。
神を倒す? 言い換えれば神を殺す……。
その引っ掛かりが形になるその瞬間。
致命的ミスのツケを払えと早速、催促しに来た。
「きゃあっ」
レルに黒い何かが襲い掛かった。
「レル!?」
「しもうた!」
気づいたときにはもう遅い。
レルの体は宙に浮き黒く染まった魔力が球体になって纏わりついていた。
「何なんだよコレ……」
「わしはなんて馬鹿者なんじゃ……」
ソフィは失意に飲まれていた。
「ソフィ、コレは何なんだ?」
ポロンが状況を整理すべくソフィに問う。
「先ほど倒した悪魔の神格じゃ。レルを飲み込んで新しい体を得ようとしておる……」
神には死の概念が無い。
悪魔の体は消し去れても神格は残り続ける。
「どうにかできないのか?」
「無理じゃ……侵食速度を抑えることはできるが根本的解決にはならん」
「諦めるなよ! 侵食速度を抑えて考え抜くぞ!」
ポロンがソフィの両肩を掴んで訴える。
「すまん。お主の言う通りじゃ」
ソフィは漸く落ち着きを取り戻し進行速度を抑えるべく即興で編み出した魔法で対応する。
体を乗っ取るのであればレルの体を覆うように魔力の壁を作ればいい。
即興で作ることは難しくなかった。
考え抜くと発言したポロンも必死になって考えるがレベルが違いすぎた。
(クソっ、俺はいつでも足手まといかよ! 俺に強さがあればレルじゃなくて俺が標的だったのかもしれないのに……)
ポロンは神格が体を乗っ取るという行為を強さを基準にしたのだと考えていた。
悪魔を倒したソフィに乗っ取ることは不可能、重症である王様と兵士の人(ケリオスのこと)を乗っ取っても不安定な状態になるだけだ。
であればポロンかレルのどちらかということになる。
ここまでは正しかった。
しかし、神格がレルを選んだ理由はポロンの考えとは異なっていた。
神格がポロンを選べなかった理由。
それはポロンの体に先客が居たからである。
『力を求めし祝炎の子よ』
頭に女性の声が響く。
「誰だっ!?」
「どうした? ポロン」
ソフィは誰何の声を発したポロンを不思議そうに見つめる。
「いや……」
(ソフィには聞こえてないのか……?)
『その少女を救いたいですか?』
「ああ、救いたい!」
何も考えずに即答した直後、ポロンの周りに無数の魔方陣が出現した。
「何じゃと!?」
ソフィが驚きの声を上げる。
「まさかポロンが……」
ポロンは遠のいていく意識の中、ソフィの呟きを最後に目を閉じた。
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