第十五頁 暗躍
「これが建国祭……!」
「相変わらず凄い人だな」
レルとポロンは外に出て驚いた。昨日もそれなりに人はいたが、今日はその比ではなかった。
年に一度開催される最大規模のお祭りである。これを楽しまない手はないように感じるほどだ。
「こんなんで本当にクーデターとか起きるのかよ……」
実感が湧かないのも仕方がないといえる。
「何でも良いから楽しみましょ?」
「お気楽なもので……まあ、起きたら起きたときか」
お気楽なレルの後を着いていくポロンは実感の湧かない不安を頭の隅に押しやって祭りを楽しむことにした。
「見てポロン! あれ凄い!」
先へ先へと進むレルは大広場の中央で何かを見つけたらしく、目をキラキラ輝かせながらそれをポロンに知らせる。興奮しているためか時折見せる子供らしい姿にポロンは微笑んだ。
「ん? ああ、イノングの丸焼きだな。王都の名物だよ」
王都名物であるイノングの丸焼きは王都周辺で現れるイノングという獣を調味料を使わずにそのまま焼いて食べる料理だ。
イノングはイノシシをそのまま巨大化したような獣で名前の由来もイノシシの王(イノシシ、キング)から来ている。
大きさは象よりも一回り大きい程でその巨大さ故に一般的なイノシシと違いほとんど走らないのが特徴だ。
王都名物なのはイノングの生息地域がルストフンド王国の森林だけでルストフンド王国の王都でしかこの料理が食べられない上に専用の料理器具が王都にしか無いからだ。
生息地域が狭い割に生息固体数は絶滅に程遠いくらい居るのだが、このイノシシの王を食すことは天の恵みだと神聖視され年に数回しか食べられる機会がない。
「へえ。私たちは食べられるかな?」
「今は焼いている途中だから無理だろうけど、後でなら一般販売で買えるはずだぞ。この肉、イノシシなのに獣独特の臭いがあまりしないんだ。脂肪分が少ないから女性にも人気らしい」
「ポロンに女性の気にすることを心配されるのはなんだか複雑だけど、気にしないで食べられるなら後で食べちゃお!」
超が付くほどご機嫌である。
「はは……それが良いんじゃないかな」
レルの興奮に苦笑いするポロンはこの返し方しかできなかった。
(……ん? 誰かがこっちに走って来るな)
ガフストは足音から何者かが走って来ているのを察知した。
到着したからか足音が消える。
コンコンコン。
直後、強めのノックが部屋に響いた。
「入れ」
その部屋の主であるガフストは入室許可を出した。
「失礼します」
「ラードか。どうした?」
この男が走ってここに来るのは珍しい。余程のことがあったと直ぐに予想ができた。
「特務の斥候が先ほど妙な知らせを」
「妙な知らせだと?」
「南西の大門の警備兵が怪しい物体が宙に浮いていたと」
「何!?」
「人員を集め引き続き監視を続けろと命令しておりますが……どうしますか?」
兵の対応はラードとケリオスが何とかするはずである。この「どうするか」という問いは国民に対する対応のことである。
「外出禁止令を出すべきか……」
簡単に決断できないことのためガフストは悩んだ。
「それも致し方ないかと」
「物体と言葉を濁したということはまだ距離があるのか」
「位置的には四、五十キロメートルほどかと。その距離で魔法の補助有りで視認できたとなるとかなり大きいものと推測されます」
「ということは……骨龍が? だが奴は飛べないはず、それに祠は北西方向だ……まさか別の戦力か?」
「その可能性は十分考えられます。もしそうだとしたらかなり不味い事になりますね」
「……ラード、確証がない今、外出禁止令は出すわけにはいかない。全兵に一層、気を引き締めるよう伝えろ。あとケリオスにも今のような理由を知れせておけ」
ここで外出禁止令を出してしまえば敵は人に紛れることができなくなる。そうなれば有利要素が減るため、失敗の許されないクーデターの実行を避ける可能性がある。脅威の先延ばしとなってしまう上に敵の戦力を増強する時間を与えてしまうのはガフストとて本意ではない。
「了解しました」
ラードは王の命令に異議を唱えることなく了承した。
「リーダー、指示通りにさせたわよ」
地味な服装の女性が路地裏で待つ二人の男に声をかけた。
「良くやった、ハローマ。カカカ、ドンパチが楽しみだぜ」
「大将、出しゃばるなよ?」
釘をさすように壮年の男がリーダー格らしき男に言った。
「言われなくても分かってるさ」
「あら? リーダーってば公国との戦争時にも同じこと言って戦場の中心で作戦を崩したじゃない」
ハローマと呼ばれた女性がリーダーの前科をばらした。
「……前科持ちってのは初耳だぞ」
「カカカ、そういうこともあったな。今日はそんなことしねえから安心しろ。それで? 野郎どもは?」
「各自、いつでもいける位置に付かせてる。客に紛れてるから疑われねえはずだ。あいつらも楽しんでるぜ」
「よし、奴らに十三刻の鐘で動くよう伝えろ」
「了解……ったく人使いの荒い大将だぜ」
「マークレル、お褒めの言葉をありがとう。今ならおひねりも受け付けるぜ?」
リーダーはマークレルに手を差し出す。
「文句も通じねえのかよ。まあいい、行ってくる」
マークレルは無駄だと悟り、手を払って命令を遂行しに行った。
それに入れ替わるようにフードを被った男がやってきた。
「カルスさん、順調ですか?」
「ショーニンか。順調といえば順調だ」
「それは良かった。そうそう、敵の戦力が判明しましたよ」
「戦力よりその情報の入手方法がしりたいなあ?」
商人の手腕に興味津々なカルス。
「企業秘密です」
商人は自身に向けられた好奇心を軽くいなした。
「方法はおいおい聞くとして、それで? 戦力は?」
カルスは追求を諦め商人に本題を問う。
「通常兵一個中隊と魔法兵二個小隊です」
「思ったより少ねえな」
「兵士の機能性を考えると妥当なラインじゃない?」
「ええ、私もそう思います」
ハローマの意見に商人も頷きながら賛同した。
「そういう用兵論は専門外だからよ。ショーニンが居てくれて助かったぜ」
「本当よ、私たちは殺すことしか能がないからね。私からもお礼を言うわ」
組織を代表して二人は協力者に礼をした。
「いえいえ、こういうのは得意分野を担当するのが効果的なんですよ。私は体を動かすことに関してはからきしでしてね。私も目的を達成するためにあなたたちを頼らなくてはなりません。ギブアンドテイクということです。作戦が始まったら即行で逃げますので悪しからず」
「わーってるよ。あんな戦力と作戦、情報を提供してくれたんだ。肉体労働は任せとけ」
「頼もしい限りです」
フードからかすかに笑みが見える。
「それでは、御武運を」
フード姿の商人はそのまま路地を去っていった。
「なんか釈然としねえんだよな……」
「どうしたのよ」
「あいつがさっき見せた笑み、気持ち悪いくらい空っぽなんだよ」
「そうなの? 私には分からなかったけど」
「何というか俺には奴が人形にしか見えないんだよな」
「人形ねえ」
「まっ俺らには関係ないことだけどな」
カカカと笑うカルスの元にマークレルが帰ってきた。
「伝えて来たぞ」
「おう、おかえり。マークレルも帰ってきたことだし俺たちもそろそろ動くか。行くぞ、二人とも」
「「了解」」
主軸となる三人も動き始めた。
運命の時は刻一刻と近づいていく。
「ククク、思い切り暴れるがいい。私たちが望む『黒き王』の礎となれ!」
先ほどの商人と同じフードを被る男が建物の屋上に立っていた。
「さあ、『管理者』よ。どう動く?」
その言葉を残したフードの男は屋上から消えていた。
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