第六頁 街へ寄り道

 街へと着いた一行は自由時間とした。ポロンは馬車を見ていると言っていたので馬車に残るようだ。(寝袋もあったので荷運びの仕事上よくあることなのだろう)

 早速、ソフィとレルは宿を取りに行く。今までは各地で図書館兼自宅を使用していたため宿を取ることはあまり無い。しかし二人は宿の取り方を熟知していた。

 ソフィとレルは二手に別れる。レルが関所付近でソフィが街の中心部だ。それなりの広さをもつ『街』では旅人が多く泊まる。旅立ちの利便性などを考慮して短期の人は基本的に関所の近くに宿を取る。勿論、街民は自宅にすんでいるため宿は利用しない。必然的に人気が高いのは街から出やすい外側なのである。

 かといって中心部に何も無いかというと全くの逆であるのは明白である。中心部は短期の人にとっては確かに使いづらい側面があるが商店やら飲食店など街民にとって利便性の高い施設が揃っている。

 故にソフィとレルにとって第一希望は外側、第二希望は中心部なのだ。

 計画はこうだ。レルが取り敢えず街の外側の宿(勿論、宿泊費は安め)の空きを確認する。予想通りなら満席のため、そのままソフィを追いかけ共に行動する。空いていた場合、宿を確保しソフィの元へ向かう。どちらにしろレルは動かされるのである。


 結果は全くもって予想通りであった。レルは宿の空きを見つけられずソフィと共に中心部の宿をとり、現在、部屋のベッドでくつろいでいる。

「はあー、疲れたー」

 ベッドに座り込み足をばたつかせるレルは動かされたことに対して愚痴をこぼした。

「若い者の運命さだめじゃ」

「体の年齢はソフィの方が若いじゃない」

 実際、レルは少女でソフィのは幼女だ。肉体の若さだけなら後者の方が若い。

「常識的に考えて14歳と9歳、どちらが運動に適しているかの?」

 しかし、残念ながらその論法はソフィには通じなかった。

「ぐっ……」

 正論で封じられるのならば、別の角度から正論を叩き込めばいい。

「……子供を一人で外を歩かせるわけにはいかないじゃない?」

 完全に方向をずらしたレルの口撃を受けたソフィは

 ニヤリと笑った。

「甘いのう」

「うっ」

 図星だった。ある現実を突きつけられたら、この方向も終わりである。それにはレルも気づいていたが、ものは試しと言ってみた。結果は予想通り、気づかれていたわけだが。

「レルもじゃろ? しかも、わしと同じ女性じゃ」

 はい、論破。

 しかし、ここまでは予想内、ここからソフィが予想外のことを口にする。

「残念じゃのう。そんなに疲れたのならもう寝なさい。わしはこれからに行ってくるから」

 告げることだけ告げたソフィは立ち上がり外へ出ようとする。

「……」

 レルはソフィに何か反論しようと考えていたため彼女の問題発言に気づかなかった。ソフィがドアノブに手をかけたとき。

「……えっ? もう一回言って」

 なにか大事なことを聞きそびれた気がしたレルはソフィに、もう一度問う。

「わしはこれから温泉に行ってくるから疲れたのならばもう寝なさいと言ったのじゃ」

 ソフィは温泉という単語を強調し、もう一度、無慈悲な宣告を下す。

「……温泉?」

 ここでやっと重要な点に気づく。

「うむ」

「あるの? 本当に?」

「みたいじゃよ」

 肯定の発言を受けたレルは

「ごめんなさい! 疲れてません! 行きたいです!」

 全力で謝った。

「正直でよろしい」

 意地悪なところは多々あるソフィだが、それもほほえましいレベルである。これ以上、いじるつもりはなかった。


 その頃、ポロンはというと。

「「荷運びのみなさーん! 差し入れですよー!」」

 という女性たちの声が響く。

 わあっと盛り上がる荷運び一同。

 集会所にて街民のご厚意でスープを差し入れに来たらしい。続々とスープを貰うために列を作る。勿論、このようなことは多くはない。ポロンも二回目だ。それでも列をきちんと作るあたり恒例なのだろう。その最後尾にて空を見上げていた。

「今日はいい星が見れそうだ」

「みたいだな坊主!」

 見知らぬ男性がポロンの背中を叩き話しかけてきた。

「……!?」

 完全に独り言だったのだがどうやら聞かれていたらしい。ポロンは驚きと気恥ずかしさが混ざった微妙な表情をする。

「わりぃわりぃ。驚かせちまったな。俺はロズザルト。気軽にロズと呼んでくれや」

「はっ、はい! 俺はポロンといいます」

「ポロンねえ……バルムのところだっけか?」

「そうですが……ご存じなんですか?」

 バルムは荷運び業界ではかなり名が知れている。知っているのか? とは明らかにポロン自身のことだ。知られている理由に心当たりがなかったために疑問に思ったのだ。

「ああ、本人からそういう少年がいるって聞いたからな。なんせ積荷雪崩事件の主犯だっていうから印象深くてよ」

「あれは……ビギナーでしたから」

 どうやら荷運び一年目に起こした事件でポロンも名は知られているらしい。内部だけで事が済んだ事件のため、あまり知られていないと思ったが話のネタとしてかなり広く広まって入りらしい。まさかバルムもネタとして使う人の一人だとは思ってもいなかったが。

 ポロンは顔を赤くし少しうつむき気味になった。

「誰だってそういうミスはあるからよ。気にすんなって」

 言葉だけ見れば優しい人であるが笑いながら言っているのでかなり性格が悪い。

「次の人ー」

「おっ! 俺たちの番だ! 行こうぜ! ポロン被告?」

「絶対わざとでしょう!」

「まあなんだ。お前と少し話がしたいから少し付き合え」


 と楽しい(どうみてももてあそばれている)ひと時を過ごしていた。


「「おおーっ!」」

 話は再び女性陣に変わる。

 二人は銭湯の前に立っていた。

 『おおーっ!』と言ってはいるが別に銭湯が初めてというわけではない。しばらく銭湯に来てなかったし、そうそう入れる機会があるわけでもない。要するに二人ともテンションがハイになっているのだ。

 早速、中に入りレルは更衣室へと駆ける。しかしソフィは走らなかった。なぜなら、公衆浴場なので走ると迷惑になるからだ。レルは子供だからと許されるだろう。しかしソフィは成人している。(見た目は幼女なので同じように許されるだろうが)大人まで走ったらみっともないと考えていた。

 ソフィが更衣室につくとレルは早くも下着姿であった。

「早いものじゃの……いろいろと」

 レルの年相応に成長する二つの山を見てソフィは悲しくなった。

 先ほどまでの熱はどこへ行ったのかと言わんばかりに失意にのまれるソフィにレルは心配した。

「どうしたの?」

「なんでもない。先に入っとってくれ。すぐに行く」

「そう? なら先に行くけど……」

 レルが浴室へ向かった後、ソフィは自身の胸に手をあてた。

(成長しないこの体で、ないものねだりは無駄じゃとわかっておるのにのう……)一度、自身の気持ちを整理し浴室へ向かうソフィだったが、虚しさを無くすことができずにそのまま温泉を楽しむのであった。

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