第???話 邪神の復活、という設定(精霊歴201年)

●マッチポンプ世界は、精霊システム⇒ダンジョンシステム⇒邪神システムという流れになっています。その後正式リリース、大型アップデートと100年周期で新しいことに挑戦します



「ダンジョンシステムもこの100年で大分浸透してきたわね」

「うまく資源管理できてよかったよ。精霊が自然破壊を抑止していたとしても、人は豊かさを求めてしまう。鞭ばかりではなく飴も与えないと」

「人間って面倒なのね」


 ダンジョンから生み出されたドロップアイテムと魔石(笑)と錬金術(笑)は人々の生活を一変させた。この世界で科学は芽生えないだろう。――と高をくくっていたら、魔石を使わず実用的な機械を創ろうとしている連中が居て慌てて殺した。直接手を下すのは神様制約があるので精霊使いを使って悪人だとでっちあげたが、精霊使いは基本不殺なので殺すことができない。

 

 もちろん本当の悪人も誅することができればなおよろしい。精霊として増え続け早200年。世界の隅々まで監視できるようになって思ったのだ。


「やっぱり死んだ方がいい人間っているのよね」

「神になって人への共感力が落ちている俺ですら、世界中で人間を観察してると殺したいやつがいっぱいいるもんな。人間ってどこまでも鬼畜になれるのだなあ。それに比べたら地球は平和だった。裏では色々あったのかもしれないけれど」

「精霊に命じて精霊使いを操って殺しましょうよ」


 リースは気楽に提案してくるが設定的にまずい。基本精霊は性善説で悪人すら救うってことになってるからな。このあたりの機微は生まれながらの神にはわからないみたいだ。


「じゃあ、どうすればいいのよ」


 むくれるリースの姿がかわいい。


「一つ考えがある。——邪神なんてどうだろうか?」

「邪神? 神聖文明時代に従属神たちがお互いを邪神呼ばわりしていたわね」


 不都合な人間を消すための組織を作ろうと思う。邪神である。善の存在である精霊使いを裏から操ってきたが、今度は悪の存在を裏から操るのである。そのための邪神(笑)を作り出すのだ。

 まあ、リースは邪神をやりたくないらしいので、またもや俺が邪神役をやるわけだが。っと。茶番をやる前に名前を決めてくれ。


「じゃあポチノスケなんてどうかしら?」

「ごめん、やっぱ俺が名付けるわ」




【精霊歴201年】


「邪神様、私を贄にどうかこの世界を滅ぼしてください」


 薄暗い牢屋の中で、美しい少女がその美声で日課の賛美歌を奏でている。だが、その内容はひどく物騒だった。

 気味悪がっていた実験体仲間も、今は気狂いとして距離を置くばかり。

 それでも少女は邪神への祈りを止めなかった。

 「実験室」でどんなに痛めつけられ、拷問されても、来る日も来る日もひたすら祈る。



 邪神などという存在はいない。彼女だけの邪神。妄想の産物。



 実験体は日に日に減っていく。何が目的で「実験」をしているかはわからない。

 『帝国のため身をささげることは栄誉である』と嘯く帝国兵たち。その瞳には侮蔑と蔑みが込められているのをしっかりと把握していた。



 そして、ついに少女の番がきた。しかし彼女は恐れない。自分が死ねばそれを対価に邪神が世界を滅ぼしてくれる。本気でそう信じていた。



 それを聞き研究者たちは嘲笑した。邪神などという空想の存在にすがる哀れな少女を。せいぜい痛めつけて絶望を与えてやろう。人体実験を行う彼らもまた狂気に呑まれていたのかもしれない。いかに絶望した顔をさせるのかを競うのが最近の趣味だった。 

 哀れな少女は妄想を抱えたまま命を終える、はずだった。


 そして、————。


 

「ああ! 邪神様! 感謝いたします! この身を捧げます……どうか、どうか世界を滅ぼして下さいッ!」


 血だまりの中で少女は歓喜していた。自分を痛めつけていた研究者も帝国兵も等しく肉片と化した。

 姿は見えないがわかる。この身に宿りし圧倒的な存在を。

 これこそ邪神に他ならないと。

 これでこの腐った世界を破壊できると狂喜していた。


『我を呼び覚まし者よ。名乗れ』

「に、28号でございます」 

『それは名前とは呼ばないであろう』


 邪神に言葉をかけられた。その事実だけで、恍惚感に包まれる。

 実験体仲間が教えてくれた敬語の知識を精一杯つかう。もとより頭の良かった少女は研究所のだれよりも敬語を扱えた。

 それは彼女の才能の一端を示している。

 ただ、何か間違ったのだろうか。実験体たちは皆番号で呼ばれていた。それが人間の名前なのだとばかり思っていた。内心焦っていると、邪神は死にゆくこの身に慈悲を下さったのだ。

 


 少女はこの時の会話を生涯忘れることはなかった。

 


『我が名付けてやる。——ナイチンゲール、これからはナイチンゲールと名乗るが良い』

「……ナイチンゲール」

『そう。お前の。お前だけの名前だ。由来は異なる世界で戦場で多くの命を救った者。そして世にも美しい声の鳥。まさにお前に相応しいと思うが、どうか?』


「わかりました。私はナイチンゲール。邪神様ありがとうございます。でも、多くの者を救った名前がなぜ相応しいのでしょうか?」

『ははは、我が本当の目的は世界平和だとしたらどうするか?』


 少女――ナイチンゲールは一瞬何を言っているのか理解できなかった。だって邪神なのだ。邪神がどうして平和など求めるというのか。


『正確には平和ではないがな。我は世界の天秤を守るシステムのようなものだ。創造神と対をなし、この世界を守ってきた』


 そうして邪神の口から語られる『世界の真実』。薄暗い研究所が世界のすべてだったナイチンゲールにとって何が常識なのかはわからない。

 けれども、この世界の真実は既存の常識をぶち壊すに足るものだろうと考えた。


「ではなぜ邪神様は『邪神』をお名乗りになっていらっしゃるのでしょうか?」

『なに、邪神の名前は案外気に入っている。こうしてお前と出会えたのだ。邪神に堕ち封印され我を呼んでくれたお前に。

 デルミハーク。これが我が真名である。もはやこの名を知るのはお前だけだ。感謝するがいい』

「デルミハーク様、ありがとうございます!」


 平伏しながら歓喜の声をナイチンゲールはあげた。


「どうか、私のことも『お前』ではなくナイチンゲールとお呼びください」

『ふはは、ならば我の役に立つのだな。その暁にはきちん名前で呼んでやろう』

「ははっ、必ずやご期待に副う活躍をしてみせます!」


 彼女は忠誠心が天元突破したかのように嬉しそうにしている。


『悪と善の均衡を保つのが我の役目である。至極簡単に説明すれば、善に偏りすぎたら善人を殺し。悪に傾きすぎたら悪人を殺す。

 しかしながら、お前が地獄を体験したように、人間の世は常に悪に傾いている。だから我は多く人間ども殺しつくしてきた。ゆえに邪神と呼ばれ、ついには封印されたのだ』

「はい」

『なあ、少女よ。我と共に悪人狩りを楽しもうではないか。ふふふ、邪神と世を救済する。これほど痛快なことはあるまい。

 ……お前は人間という種そのものを滅ぼしたいのだろうが、人の世は悪人にあふれている。獲物はいくらでもいるのだから安心するがよい。心地よく復讐できると保証しようではないか』

「はい!」

『ここに契約は成立した。お前を正式に我が眷属にしてやる。現世においてただ一人。最初の契約者として。誇りに思うが良い。

 まずは悪人狩りをしつつ仲間を探そう。そうだな——十三死徒なんてかっこよくないか?』

「はい?」


 これが世界を震撼させることになる邪神教の始まりであった。





【幻の発明たち 著オルテス・マージ】

 たとえば「飛び杼」とよばれる機械は織物業にとって革命的発明であったらしいが、焼き討ちに遭いその製造法ごと消滅している。その後も「飛び杼」に代わる発明は幾たびも生み出されたが、そのことごくが邪神教の襲撃に遭い消滅してきた。

 一説には邪神を呼び寄せる儀式だとされた「飛び杼」の研究は、各国において禁忌とされている。


(中略)


 そういった幻の発明の一つが、「蒸気機関」である。カーギルという有名な発明家はいつも「精霊にも魔石にも頼らない動力」を生み出せると豪語していた。

 日夜研究に明け暮れていたカーギルはとうとう発明に成功した、という言葉を残して行方を晦ましている。彼の研究資料もまた発明品もろとも消えており、世界を変えるはずの「蒸気機関」とは何だったのかはいまだに謎に包まれている。



【十三死徒に関するレポート(禁書) 帝国諜報部】

※閲覧権限:王族、伯爵以上の貴族、将軍、宮廷魔術師


……多大な犠牲を払いながらも、邪神教最高幹部の名前と邪真名じゃしんネームが明らかになった。彼らの詳細については別途記述する。教祖は『盟主』と呼ばれることが分かっているが、美声の少女ということ以外邪真名すら明らかではない。邪神の真名と同様早急に調査が必要である。

 なお、リストのうち幾人かはすでに魔道十三席、使徒十三星、十三聖人の尽力により討滅されている。が、新たな幹部が存在するかについては不明である。


教祖『盟主』??? 

十三死徒

第1位『堕天』プリンシア

第2位『死神』アンゼリカ

第3位『凶刃』ユミル

第4位『災厄』ペシュメルガ

第5位『呪怨』アンシール

第6位『禁忌』プロカス

第7位『鉄壁』ミラ

第8位『地獄』ツェルカンプ

第9位『奇術』クリオーシュ

第10位『爆撃』リシュウ

第11位『狙撃』ベイチェフ

第12位『蒼月』フランシス

第13位『紅月』フランソワ



【邪神教の成り立ち 著クロス・ルメルト】

 一般に邪神教の名が世界へと広まったのは国落とし事件からであろう。当時の帝都ベルカンティーナでは……


(中略)


 ……悪人に裁きを下す邪神教は一部の民衆に熱狂的な支持を受けている。こうした隠れ邪教徒の存在が邪神教の摘発を一層困難にしているのだ。

 復讐を誓うもの。ただ力を求めるもの。永遠の命に惹かれるもの。邪神に同心するものは後を絶たない。

 邪神教を根絶するのは、人の世に悪徳がはびこる限り不可能かもしれないと筆者は考える。

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