第16話 children’s end
知識のみではその本当の意味を知ることはできない。聡明なだけでは前を向くことはできない。例えば、この行動をとれば、その結果を真になる、けれども、その過程はどのように見いだすの?その過程こそを私は知恵と定義していた。私はあの場所をテイアと定義することにしてた。
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ふと、その瞬間に見た目の前の光景を覚えている。目の前にいたのは歩いていく少女。手に持つのは大きなバックでそのバックはきっと重いのだろうな、と傍目から見ていた。その重荷をもって歩く彼女。けれどもその重さを感じさせないように彼女は颯爽と歩いていた。その荷物は重いでしょう?その重みはどこに行っているのだろうと考えた。そうだよ、私たちは元々違う場所にいたのだ。長い旅だった。本当に長い旅で、それが、とても苦しい。
『けれども、その苦しみのさなかにあっても、君はそれを悪とは思わない。』
いいや、君はそれを正しいことだと思うんだろうね、とあるなは笑った。
『そうだね、私たちのできることなんでそれぐらいなんだから。――――いつ気づくんだろうね。そんな大仰なことしなくたって私たちはこうして生活をしているだけで罰を受けているんだって。だからそんな、自分の人生を充実させようと頑張っている人はそんな無意味さにいつ気づくんだろう』
『忘れないでね、蓑輪。君の視点は君が見たところからの視点だ。その視点はーーーー』
『知ってるよ。私は空っぽな人々とは違う。』
でもね、と彼はいう。
『でも、君も自分に意味を求めようとしているのはとてもよくわかるんだ。どうして、自分に重荷をかけようとするの?』
『私は自分に重荷なんてかけていないよ。あえて言うなら、私はちゃんと生きたいだけ。空っぽな人は嫌なの。』
それこそが、重荷なんだ、という言葉をひっこめた。生きること、ただそれだけが苦しいのだ。それは現実を直視することに他ならない。
『君は・・・』
とこちらをじっと見る。
『な、なにかな?』
と問いかけた。束の間の時間稼ぎだったのだと思う。
『選べてない。自分のことを』
『そうだね、まだ空っぽなんだ』
ただのものをいっぱい詰めただけの、空っぽだ。
ただの・・・
『どこへいくの』
『まだ決まってないよ』
けれど、もしも君の手が空いているのなら、
『今度は、君と一緒に歩いてみたいと思う』
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「私はきっと友達・・・じゃなくてもいいんだけど味方が欲しかったのかな」
どんな失敗をしたっていい。どれだけ怖がっててもいい。それでも最後まで私と一緒にいてくれるような人・・・・そんな人がいればきっと私は怖くはなかったのだと思う。とても綺麗な着物を着た。こんなに綺麗なものは、私のような汚いものよりも、綺麗な人物に使って欲しいなと思った。私のせいで汚れてしまうのももったいない。せっかくの綺麗な服装が悲しく見えた。
また、今日もあるなと話をした。私の調律の力はきっと誰にも真似をできないだろう。こんなことを実行させえたのは私だけのはずだ。だって、私たちの固有の物語にそんなものはないから。私たちは物語の上に立って何度も同じことを繰り返しているのだ。テイアの土と、テオを混ぜ込んで動く人形を作った。テイアから帰るときにテイアの土を持ってきていた。笑ってしまう。なんて執念深さなのだろう。しかし、あの場所を特定できるのはそれしかないと私は考えた。だから、その土をどう生かすか、それが今回の調律の核だった。
結果的に、それは成功することになった。そしてその成功例をあるなと名付けた。あのコードの乱れはあの日から感じ取ることができなくなっていた。だから、あるなを道しるべとして、またあの場所へ行く必要がある。
あの拒絶されて以後、気づけば、私はベットの上に倒れこんでいた。私はトネの市街に倒れていたらしい。二週間も眠っていたのよと助けてくれた住人が教えてくれた。同時に、私は以前と同じような生活を送ることができないということも感じ取っていた。私たちは同じコードの上に生活を共にする。私たちはそのコードから逸脱することはない。私たちはその人の背後関係を全て知っている。その言葉がどんな感情を伴っているかが全てわかる。・・・だから私たちに言葉なんてものは本来必要なかったはずなのに。
お帰りなさい蓑輪、とあるなが私に話しかけた。
「今日はトアの片隅の村で死闘があったそうです」
「・・・・」
続けますかと言う視線をこちらに向けてくるあるなに続けてと言う視線を投げかけて続きを聞く。「滅多にないことなのでみんな驚いてしまって。あ、滅多にない、と言うよりも初めて聞きました」みんな無言で違うだろ、って彼を諌めたんですよね。とあるなはそっけなく言う。言葉があるのだから使えばいいのに。なんも説明もなしに言うんですよ。なんでもわかってもらおうってただの甘えじゃないですか。僕たちは同じじゃないんですよ、と言ったところでしまったと言う顔をしてまた話を続けた「ま、まあそのように集まった人たちでその場は収まったそうです」不思議ですね、とあるなは手を頬に当てて話す。なんで権力機関とかそう言ったものがないのだろう・・・神官と言う制度はあれどそれを統治する機関がないなんて。みんな不愉快も何もなしに生活していくようだ。嫌なことは全て目の前に起こることはない・・それに、「楽しげな言葉も聞こえませんね」その声に、そうね、と思わず口を出してしまう。
「あなたはここの文化を知らないものね」
でも、蓑輪はこの文化で育ったものでしょう?とあるなは質問する。でもあなたは違う、と
「私は少し狂ってるの」
「狂ってる?」
言葉が好きだったの。滅多にない行動をしたの。そう聞くと、蓑輪らしいですね、と笑った。
「蓑輪らしい?」
ええ、とあるなは笑いながら言った。蓑輪は僕にとって特別なんです、違うんですと言った。特別も何もないよ、と答えた。あるなは私以外に関わる人はいないでしょう?あなたが意識を持ってからずっと私と一緒にいるでしょう?と。
でも、違います。あなたは特別です、とあるなは言う。
あるなは私たちと一緒じゃないものね、そう心の中で思いながらそう、と返事をして私は自分の部屋へと戻った。
私たちはもともと言葉が必要ないほどに完全な社会を作り出していた。それを示すように、統治組織も必要なく、全てが正しく行われるように円滑に動きを示した。けれど、そのほころびが見え始めていた。死闘なんて行われたのはこれが初めてではない。今回はおそらく面倒ごとを起こしたくないと言う共同的無意識を勝ったのだろう、何事もなく終わった。けれど、帰り道見た。喧嘩をする人々、泣いていた少年、なんでわかってくれないの、と言う声。あの崩れはじめを感じた日から、世界の秩序は崩れ始めていた。私は覚えている。みんなが完全に収まっていた世界を。私はみんなが好きだよ。本当はみんなが願っていることを知ってる。だから、頑張ってみるよ。
あの日以来、身体が焼けるように熱かった。これが一種の呪いであろうことはすぐに予想できた。呪い、希望か。生きたいという願いか。けれども、私はその願いに同意はできない。私たちは私たちを守るのよ”私たち”を否定したことは許さない。また熱が襲ってくる。「うっ・・・」と思わず声を出してを握りしめる。まだ体が痛む。これでは疲労ぐらいで倒れてしまいそうだ。身体を動かす事でさえ痛いのに、私はまだ歩き回る意思がある。その事実に私は自分のことながら驚いてしまった。今日も歩いて資料を探してきた。歩き続けることはある種の責め苦だ。・・・生きているだけで罪なのだろうか。
今まで使っていた家は崖の上にあった。流石に崖を登るまでの気力がなかったので、あるなに手伝ってもらって、市街地の裏手から地下の遺跡まで、通じる道を掘ってもらった。流石に私が手伝おうとしたら次の日倒れてしまったため、私は見守ることしかできなかった。できたよ、と言いに来たあるなに「ありがとう」と言った。その時の、きらきらと目を輝かせてこちらを見るあるなといったら。
そんなことを思い出しながら、地下の遺跡、我々の住居へ至る道を歩く。突き刺してくるような熱さを無視して。
また次の日も目的のために奔走した。そうして家へつくと、おかえりなさい、と声が聞こえる。今日はどうだった?と私はあるなに近づいて言って尋ねる。様々な本を読みました!と両手いっぱいの本を見せてくれる。そして、その本を膝に置き、大切そうに撫でながら「何だか、知識を思い出してくるようなんです」と、言った。もともと僕が知って居て、それが目の前に発掘されて行く、という感覚です。そうなのね、嬉しい?と私は何度も尋ねる。そうですね、と人差し指を上方向へ向けて指をふりながら答える。
「どうも気持ち悪い感覚があるんです」
「それはどう言った?」
知っていることを知らないってとても恐ろしくないですか?そう兎洞はいった。本来知っているはずのもの、そう・・・あるなの言葉を聞いている最中に、『生きたい』そんな言葉が聞こえた気がした。その瞬間「あ、れ・・・」と私はバランスを崩して倒れこんだ。蓑輪、という泣きそうな声が聞こえてくる。大丈夫、だよと伝えたい。けれど届かない。そうだ、あるなは人間じゃなくて・・・。それに、私は本当に自分が大丈夫なのだとわかっているのだろうかーーー。
私は本当に大好きだったのだ、彼らのことが。だから、許せなかった。どうして、助けようとした私を拒絶したか、ということを。私はずっと疑問を世界に投げかけていた。同じシニフィエをもつ者。同じパロールをもつ者。
テイアで見たものは記録だったのだと思う。一番大きな割合を占めていたのはひどい大戦の記録だった。泣いて、すがる人たち。でも、と私は思う。全てが終わった後、彼らの目には何が映っていたのか・・・。けれど、そんな辛い思いをして欲しくはない。幸せであれ、いつでも喜びに包まれていて欲しい。
私が願ったのは、市街地で、トネの街で見る人々の笑顔、そんな日々が続いて欲しいという『願い』。
テイアの場所の役割なんて大方予想がついていた。人々の排気孔。そう、ふき溜め場である。それを処理するのが神官たち。だったら王さまはどこにいるのだろう?いや、どこにいたのだろう。
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「はっ!?」
手が温かかった。ふと身体を動かそうとするとだれかが手を握ってくれていることに気がついた。頭に濡れタオルまで置いてあった。ひどい熱だったのかな、そう思いつつタオルをそばにおく。
「あ、」と声が聞こえた。
「あ!蓑輪1」目が覚めたのですか、とベットを乗り越えて質問してくる。
体調は、と言われたところで大丈夫だよ、と私はあるなの頭を撫でた。ごめんなさい心配させたね、という言葉もしっかりと。
「蓑輪、蓑輪が行いたいことがあることは知っています。けれど、お身体に気をつけて。僕は時々蓑輪がいきなりいなくなるのではないかと心配になる時があります。」
「大丈夫よ、ほら、もう熱も何もないわ。・・・だからあなたはさっさと寝なさい」そう言いつつある毛布を手にとってあるやの方へかける。あなた寝ずに見ててくれたのでしょう、と言って。図星だったのか無言で毛布を持って自分の部屋へ歩いて行く。
「ええ、僕との約束ですよ?」
わかったわ、とあるやを見ずに返答した。おやすみなさいというあるやを見て私はタンスの中からノートを取り出してメモをする。電子鳩を飛ばして得た情報に文献を漁った情報。このトネの街では情報格差と言うものは0に等しい。だから、”それ”見ることさえできれば、全てはわかるのだろうと思った。逆に、見用としなければ何も映そうとはしないということも。相変わらず熱は冷めてくれない。何かが自分を貫いている。そんな感覚が明確にわかるようになってきた。ぎゅっと唇をかみながら私はノートを完成させていく。
このシステムは限界があった。有史がはじまってから繁栄には必ず終わりがあるように。だから、私はそのシステムを永久機関にしようとしたのだ。そうすれば、みんなはずっと笑っていられるよ。怖さに打ち勝って挑戦したものが冷たい温度を感じることもない。このことを成すために私にはこの能力があるのですよね。テイアで見た、多くの歴史を振り返っていた。あくる日は雨の日だった。次の日は晴れだった。次の日は戦争だった。次の日は平和だった。そんな光景を、彼らを愚かしいと思うと同時に、その物語に介入出来たら救ってあげられるのにと思うのは、道理ではないのか。
・・・なのに、どうして彼らは拒んだのだろう。
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「おはよう、あるや」起きたあるなにそう言って私は計画を見直す。おはようございますと声が聞こえた。今日はやけに嬉しそうだった。効率化だけを計ってはだめね、それは・・・それはただ美的感覚を損なうだけね。
「まるで原始社会のようです」またある日あるなはそう言って会話を始めた。なにそれ、と私は聞く。思い出したこと、とあるなは話し始めていた。その内容はあまり覚えていない、私は連日の計画調整に疲れていたから。きっとあと少しで私の計画も完成する。
それから計画に自信を持てるまでの日数はそう多くなかった。ある朝、私ははーっと息を出しあるなをこちらへ呼んだ、そして計画書を彼の前に見せた、そして問う、「あるな、うん、私の目的のお手伝いをしてくれる?」
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私は3つの場所を巡った。私にはもう関門など関門ではなく、私が用意した鍵は正しく作用した。最後の時まで。そして私はテイアへの門をつないだのだ。目的の先にあるものは幸せであると決まっているわけではない。
「・・・だめ、なのね・・・」
そうしてたどり着いた場所で私はそんな声を出していた。テイアの巨大な円盤を見て私はただただ怒りや悲しみといったものーーー正反対の感情、それらが相殺されて0になっているような感覚を噛み締めていた。私たちの悲しみは0へ収束される。私たち全人類を歴史とひとまとめにされたことで。私の苦しみは誰かの幸福になる。どうして?けれども、私は実際気づいていたんだあの場所は人々の感情を清算する場所だった。つまり、私たちは感情を持たずしていられなくて、諦めずには生きていられなくて、私たちは感情持たずして生きて行くことはできない。けれど、感情を持たずに私たちに一定の共同意識を持たせようとしたのはあなただったではありませんか。どうして今更感情など、と言ったところで私はあってはならないことを目にした。「・・・あ・・・」・・・それは憎むことではない。知っている神官といえどただの人間だって。システムはもともと不完全、かと私はつぶやく。
「あなたは・・・憎まれるのかな、蔑まれるのかな、人の言葉は・・・想いは重いでしょう?」
だったら、私はこの場所にいるから・・・鍵は失われた。
きっとあなたを責める人なんていないわ。そう言って座り込む。
そっと目を閉じて思った。私、蘇我品蓑輪は長い夢をみよう。と
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