第13話 契約

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「私が必要としているのは鍵・・・あの世界へ通じるためのもの」だから、最後には鍵を壊さなきゃね。また、ここに多くの人が来られたら困るもの。

そのような言葉を聞いていた。

そして心の中でつぶやく。

知ってたさ、そんなこと。

知っている、体がボロボロに崩れていった感覚も。

そうして僕はこの地に残された。

ずっと、一人で。

泥から作り出された僕は死ぬことはなく、そして生きることもなかった。

土と同化していく過程。でも辛かった。

意識だけは消え去ることを許さなかったから。

僕が一度でも許してしまえば僕は消えてなくなることだってできた。けれどそうすることはできなかったのだ。

僕は言ったんだ。僕は大好きな人の味方をしたい、と。

どこかでその願望を聞いたからそれが僕の願いとなったのか、それとも自分がそうしてもらいたかったのか。

けれどそのような悠久の時間の後、僕は一人の瀕死の少年の声を聞いた。

「生きたい、」とその声は叫んでいた。

僕は必死に呼びかけた。

「手を伸ばして、」「僕も君と一緒だよ」

「僕も、空が・・・大好きなんだ」

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「さて、行きましょうテイアへの道」

指定場所に集まって開口一番、あれ、と僕は声を出す。

「待って、那古は?那古も最後まで協力した同盟者だろ?」

那古はこんなのに興味ないと断ったんだよ、と乗末さんは告げる。

「それは残念ね」と蓑輪が告げる。

「なあ、エアレスケイアはいいのか?」と僕は蓑輪聞いた。蓑輪は少し考えてそうね、というと席を外すわね、と言って彼女を連れてきた。

さてーーーという前に蓑輪が口を開いた。

もう道筋はできているの。兎洞、あなたにもわかるでしょう?そういってこちらを見る。それは、もう冷たい目だった。


乗末さんが自然さを装って僕の前へ出る。それをそっと目を細めてみる蓑輪。

「では我々の協力関係はここまでだ。」

よかったな、蓑輪。目的が叶って。そう乗末さんは言う。僕は注意深く動く。

そしておもむろに口を開いた。

「ありがとう、形式上とはいえ契約を守ってくれて」

そしてもういいよ、とも言う。この同盟関係はここで終わりだ。その言葉を聞いてわかったわ、と蓑輪はため息をついてこちらをみる。

よかった。これで僕も気兼ねなく話すことができる。

「蓑輪さん。どうして最初見かけたときに僕を処理しなかったんですか?」

あなたは気づいていたはずだ、と問いかける。

「澤奥くん?」とエアレスケイアは僕をみる。

「それでいいのかしら」と蓑輪はこちらを見て、言う。さて、と僕は場をリセットするように大仰に振る舞う。

「僕はあるな」

覚えてますよね、と笑って蓑輪に話しかける。

「澤奥兎洞なんかではないのですよ。それは6年前に亡くなったものの名です」

「蘇我品 蓑輪」

「・・・」

無言を貫いて彼女を見る

「蓑輪、よ。あるな。」

やっぱり知ってたんですね、と言う言葉を飲み込んでおく。そんなものはもう必要ないはずだ。兎洞でないのなら、もう・・・と彼女が言いかけたところでエアレスケイアが口を挟む。「私はどちらでもいいの。かの王がなしたことでも、そうでなくても。ただ私たちはテイアでずっと」

「エアレスケイアは神官たちの名字ですね」

僕は割り込むように言う。

「へ・・?」

「第一世界ではそう言った補佐人がいたんですよ。といえど、最後に・・・」

「時間をあげるわ」

途中にそんな邪魔が入った。

「今から60秒時間をあげるわ。」そのうちに立ち去りなさい?そうであればあなたの見た未来は訪れないわよ。その声の主は蓑輪だ。ふん、と僕は彼女をみる。

60 

とカウントが始まる。

40

先ほどの質問、と蓑輪は答えた。

「単純な質問だったわね」とそう言う声を聞いた。

目の前で潰せば教理聖堂も無理だと悟るでしょ?


「っつ・・・ほら離れろ兎洞!」

嫌だな、兎洞じゃなくてあるよですよ、と言いつつ。

「まあどちらの名前でもいいんですけどね。・・・乗末さんなら」

途端何かの”声”を聞いた。バチっという不気味な音を聞く。

「ぐえっ」

首元を掴まれた。みっともない声を出す。

地面にどさっと落とされて足元を見ると雷のような跡を見た。

本当に、調律は怖い怖い・・・。

「乗末、・・・どうしてあなたそちらの味方をするの?」

蓑輪の声を聴く。続けて、あなたは教理聖堂のメンバーでしょ?と反論を許さない冷静さで言葉を紡ぐ。

それでも冷淡に話す乗末さん。

「殺して普通にそこで終わりの相手ならよかったんだけどな」

めんどくさい、とでもいいそうな顔で蓑輪は僕を睨む。ああ、そんな顔で見られたくはなかったけど、もう仕方がない。

「僕の泥の体も丈夫じゃないのでよろしくお願いしますね、乗末さん?」

「しゃがめ」

はい?と言ううちに頭を押さえつけられた。屈み込む乗末さん、と・・・とてつもなく強い調律が感じられた。

懐かしい・・・。恐ろしさよりもその気持ちの方が先行した。

バーーーーンッという建物が半壊したであろう音が聞き取れる。と、同時にぼーっとしてるな、移動するなと言う声とともに首元を引っ張られる。

グハッと容赦ない力に思わず声をもらす。息ができないから・・・もう少し・・・丁寧に扱って欲しいな・・・。と言いつつ、スピードを緩めたところで息を整えながら乗末さんに抗議する

「乱暴だな、もうちょっと・・・」と言ったところで

「おい、なんだあいつ化け物かよ」、と胸ぐらを持って空中に挙げられる。

いやちょっと、本当に少し息ができなくなるからやめて欲しい。その旨をジェスチャーで伝え、地面にどさっと落ちる。

「僕は第一世界で蓑輪についていっただけなんです、だから彼女の能力の詳細なんて知らないんですよ」、と息切れと咳をしつつ答える。

「ふうん、本当にお前は道具だったってわけだな」

おし黙る。否定はできないがその言葉を肯定したくもなかったから。

「彼女は?」離脱されたよ、と乗末さんはやれやれと手を広げて答える。

「お前を再び手にかけたくなかったんだろうな」という優しい言葉を聞けた。「そうだったらいいな」僕はそういって立ち上がる。

「ありがとう乗末さん」テイアへ来ていただけますか?と僕はもう一度問う。

その前に聞かせろよ、と乗末さんは僕に問いかける。

「あいつは身体が弱いんじゃなかったのか」

それは正しいでしょう、と僕は返す。第一世界でも雑用は全部僕でした、と胸を張って言う。いや、胸を張るべき出来事なんかじゃあないんだけど。

「前回は彼女と僕でことを進めました。今回違うのはエアレスケイアがいることです」

エアレスケイアかあ、と乗末さんは黙り込む。

「まだお前が言っていることがよくわからない、」と乗末さんは言った。

そうですね、と言って

「歩きながら説明します、来てくれますか?」と問いかける。

そして僕は説明を始めた。乗末さんは僕を助けることにしてくれたのかな、と考えながら。加えて、その経緯も思い出しながら。

簡単に言いますと、僕と蓑輪は第一世界での同盟者です。このことを前回の同盟、と呼びます。前回の同盟は成功して、彼女はテイアへ行きました。僕は細工されてまして、最後の最後にテイアへいけませんでした。そうして、気づいたら、ここにいて、また再び彼女、あなたたちと同盟を組んだわけです・・・そうして今回はテイアへ行けるだろうかその瀬戸際、というわけです。ただ前回で蓑輪が僕に細工をして行くことを阻んだように、今回も阻まれる可能性がある。ですので、その時がもしも来たならば、助けてくれないか、と。

第三関門が終わって帰り道、僕は乗末さんを引き止めて相談をしていた。

説明を聞き終わると、乗末さんは睨みつけるようにして僕を見る。あ、怖い。お前私たちに隠し事をして今まで協力してきたのか・・・と手を握りしめる。その握りしめる力は何ゆえの力ですか。そう突っ込む勇気もなくただただ返答を待った。その間があまりにも怖かったからだろうか、僕は1つ呟いてしまっていた。乗末さんもすごいですよね、殺そうとする相手とこんなに笑いながら接することができたなんて。「それが仕事なんだよ」そう言って僕を見た。

「あまりにも壮大で想像ができない」

信じてもらえないだろうなということは思ってましたよ、と僕は返す。

「むしろ、こんな話を簡単に信じられてしまう方がおかしいとも言える。・・だから、乗末さんにはトネでの出来事を見てもらってから、どうするか決めてもらえばいいと思います。」

「・・・」

僕は言う。

「教理聖堂は大昔にかの王と襟を絶った組織。」

そうだ、と彼女は続ける。

「そうだ、だから鍵であるお前さえいなくなればこの世界は安泰だ。昔のように生贄を捧げる必要も無くなるんだ。自分たちの幸せのために何も犠牲にしない・・・何でもあるけれど何にもない、そのような世界は認めない」

「そのようなーー前回の災禍を防ぐためですか?僕をここで断とうとするのは?」

「さあな、そもそも私は詳しいことは知らない。ただの手足だから邪魔なやつを処理するだけ。他のことは他の奴が決めてくれるさ。あいつみたいなさ」

「僕が消えればいいわけでしょう、あなたたちは?」

そうだと頷く乗末さんに、それじゃあ安心してくださいよ、僕は消える必要があるんです。と僕はそれでも温和な態度を無理にでも出しながら話す。彼女の目の前に立っているのが辛くて怖い。その中でも。

「僕はね、泥から作られたんです。だから下手に殺すと今回みたいに復活してしまいますよ。・・・僕の望みも叶えてないし。」

泥?乗末さんが不信感を出しながらこちらを見る。

そうか、あまりにも第一世界と第二世界、つまり現状の世界はずれてしまったらしい。

「調律という言葉をご存知でしょうか?」

調律は今でいう、魔法と同じですよ、と僕は説明していく。第一世界では、第一世界は神話の世界と言いましょうか。その世界では調律はありふれたものだったんです。魔法なんて呼ばれてなかったんですよ。続けて、

「調律とは今でいう魔法のこと。加えて言いますと、今よりももっと多様なことができた。」

それで、泥から生き物を生み出した、と。乗末さんはそういう。

「調律どころか魔法だろう、それ」

それは第二世界だから言えることですね、と僕は返す。それに、と言って

「那古の悲しみ・・・澤奥兎洞みたいな犠牲者を出すのもセンスがないでしょ?」

だから、僕が完全に死ぬ瞬間まで不完全に死ぬことを防いでくれませんか?僕はそう問いかけていた。


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そっと兎洞と蓑輪たちの状況を見ていた。

あんな風に兎洞に接していて私はどうも合わせる顔がなかったのだ。それで、裏口からそーっと。ふふ、見れればいいのよ私!そんな気分できていたのだ。けれど、今回は何か、とても恐ろしいものを見た。

あれはいけないものだ。そう察知した私は地面に身体を押し付けた。

バーーーンっと言う聞きなれない音がする。

ゴホゴホと咳払いをしてその場を離れるよう試みる。

乗末さんはなんとか避けれているけれど兎洞を守っていては私にかける気力は・・・・って兎洞!?

わけのわからない情景を見た。そっと兎洞たちの様子を見る。いや、彼はあるなと読んでいたっけ。

昔、師匠から彼のいう、第一世界の話を聞いたから混乱しなかったけど、普通に聞いてたら狂人に思えたよね、あれ。と考えながら様子を伺う。歩き出したのを見てそっとついていく。いつ姿を表そうか、なんだか出ていくタイミングがわからなくなっていた。

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