第10話 拠り所にて 2
セクション 4
教会2○
いつものように関門をクリアした後に教会へ向かった。
船の中でも何事もなく。ただ次を進めようと思うのみで。
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そうして僕たちはいつものように教会へ着いた。
いつもと違うのは、蓑輪じゃなくてエアレスケイアが僕たちを出迎えた事だった。乗末さんは彼女にあったことはなかったのだろう、彼女に近づいていって
「お前?召使いか主人を出せ」
といった。すぐに僕は口を挟む。
「あれ、今回はエアレスケイアがいるんだね。蓑輪に何かあったの?」
胡散臭そうに乗末さんはこちらを向く。那古は・・・特に興味がないようだ。
面倒ごとが早く終わらないかなあという顔でこちらを見ている。
返答の前に訂正させていただける?とエアレスケイアは笑って
「私は蓑輪の保佐人です。」
と、那古を含む彼女らに挨拶した。
「どうだっていいさ」
そう興味なさげに乗末さんは手を振って話を進めようとする。
「どうだってよくありません。・・・少なくとも私にとっては」
どのような気分だったのだろうか、わからないけれど彼女らの会話に那古も加わって言った。
「へえ、保佐人って何をやってるの?エアレスケイアさん?」
ああ・・・。ため息をつきたい気持ちを押し込んで、僕が説明した。「那古・・・買い物とか掃除とかそう言ったものだよ」
「なにそれメイドさんなの?」
那古の言葉に、違います、とエアレスケイアは断言するようにいう。そこは譲らないんだね、エアレスケイア・・・。
とりあえず彼女のフルネームは、と僕が言いかけたところで、「アルベチーヌ・エアレスケイア」と、その声とともに教会の中からその城の主が出てきた。
「彼女の名前よ・・・全く騒がしい」
「あれ、体調悪いんじゃなかったんですか、蓑輪さん?」
と那古が問う。なんだ、今回はやけに会話に入ってくるなあ。いつもぶすっとしかしていなかったのに。
やっと歩けるぐらいになったのよ、と蓑輪はいう。とりあえず、クリアお疲れ様。内容はわかったから部屋に戻るわね、これでも病み上がりよ、と言ってまた教会の中へと入っていこいうとする。
待って、と僕は蓑輪を引き留め、言っておきたい事があるんだけど、とその言葉で話を始めた。そして、彼女らに最後の関門は一週間後に行こうと思うんだ。いいかな?ということを聞いた。了承を得て僕らは帰路につく。蓑輪はすぐに教会のなかへ帰っていってしまった。「わかったわ〜お疲れ様」とエアレスケイアは手を振って帰る僕らを見送った。
那古や乗末さんと途中まで帰っている帰り道、「じゃあ次が最後かー」という言葉で目が覚める思いをした。
その言葉は那古から聞こえてきたものだ。ぎょ、としてこちらを見た那古にごめんよとジェスチャーする。那古はそのジェスチャーを見た後またふんっと前を向きなおす。幾らかの寂しさと怖さを感じる。今僕は境界線上にいるのだろう。どっちつかずが何かチクチクすることを感じさせるように、今の僕もどうあがいたってどうにもならない、次の関門に行く時である、一週間はすぐにきてしまう、そんな時間的側面にきっと怯えていた。
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昔本を並べて彼女に問いたことがある。
ねえ、どこに行ってみたい?、と。僕は昨日見せられた地図があまりにも世界の広さを、生き物というものの広さを僕に見せつけた気がしたのだ。私は、と彼女は間を置きながら答えて言った。その表情を忘れることができない。それは、これから起こり得る未来を知っていた、確実にその選択を選ぶだろうということを知っていたということだから。知っていたという推測が本当ならば僕は本当に酷な質問をしたものだ。
「多くの国があって、そこの人たちは楽しく暮らしていて、・・・私はそんなことを知っている、それだけで十分よ」
その答えを聞いた。
「ねえ、僕は色んな土地に行って見たいんだ。そこでその人たちはどんな文化を営んでいて、そんな風に笑っているのかを見て見たいんだ。」
ねえ、××も一緒に、と言いたかった。
けれど、幼な心にもわかったのだろう。
それはきっと言ってはいけない言葉なのだと。
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兎洞たちを見送って後、私は自室へ戻った。
最初は関わるつもりもなかった、兎洞たちともこうして接していることにいささか自分に腹がたつ。私であっても関門をクリアした後にどうなるかぐらいは分かる。それなのになぜかれは臆することもなく関門をクリアし続けているのだろう。その先に孤独があると知ってなお。孤独、とっても怖いじゃない。
アルベチーヌ・エアレスケイア。エアレスケイア、と呼ばれると少し胸がドキッとする。それは恐れか、それとも誇りからなのか。いまだに抜けきらない感覚にまだ未熟さを感じいる。そう、お母様や祖父母様たちにもいつも言われていたっけ・・・。涙が出てきそうになったところで思い出すのをやめる。私は元気でいるべきで、そうある必要がある。過去を思い出すだけではいけないのに。
またいずれかの記憶が過ぎ去っては想起される。
ああ、たくさんだ。私も早く、あの共同的無意識にーーーその神のもとへ行きたい。
それでもなお思い出す。蓑輪と会ったのは、そう、白い風景の場所だった。
・・・言葉の波が入ってきたようだ、確かに”私”も”わたし”もIである。
この場所に居続けた結果、見慣れていたはずなのに 世界の仕組みは変わってしまっていたらしい。
淡々と話す蓑輪とは逆に、私は、く、とスカートを掴んで話を聞いていた。涙を流しそうになるのをこらえながら。
「だから私がここにいるのだから・・・」
話を遮って言葉を発したのを覚えている。
「でも知ってる?私この世界でもやりたいことがあるのよ」
蓑輪はこちらをなんの感情もないような目で見て机の上に置いてあった本を大切そうに撫でながら言葉を続けた。
「へえ、それはどんな・・・・?」
気に入らなかった、そのめんどくさそうな態度も、投げやりな話し方も。まるで・・・まるでわたしをどうでもいい、というふうに扱ったこと。興味がないかのように振る舞ったこと。ただ自分の苛立ちからくるものだ。わかっている。けれど、こんな、全ての価値観が潰れたような人を目の前にしているのなら、もう少し優しく接して欲しかった。しばらく後に、蓑輪のこの態度は道理にかなっていたものだってことを理解した。きっとわたしは悔しかったんだ。全てが剥がれた後には何もないと言うことを突きつけられて。
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次の日、僕は教会に赴いて居た。お見舞い、という名目で。
蓑輪はいつものようにソファーに寝転がって居た。
いつもと違うと思うのはきっと僕の錯覚だ。
「一週間後でしょ、大丈夫よ」
そう言って白い短い髪の彼女はソファーに寝転がっていた。
わかるでしょ、寝たきりの状態からももう復活しているの。大事をとってアルベチーヌが休ませただけよ。そう言ってソファーに寝転がり手に持っている本を読む。
でも、といった。
「熱に浮かれされたからか、変な夢を見たみたい」
「変な夢?」
すかさず僕は聞き返した。そんな反応の僕を箕輪が見たかったのか、まあ変な夢なんて熱じゃなくても見るけどね、といってソファーに座り直す。
「なんてことない夢よ。リアルな夢ってわけじゃないし」
ただ熱だから熱された夢を見たの、と笑った。
最悪だなあと心の中でつぶやく。熱の時に熱される夢なんて。
さて、振り返しても悪いしまた寝ようかしら、と彼女は立ち上がる。
「蓑輪は身体が弱いね」
僕はそういった。何回も繰り返された言葉だ。
そうね、とそれを気にもせず彼女は歩いて行く。
じゃあね、また今度、といって彼女は自分の部屋へ消えていった。
「本当に痛いだろうになあ」
そう呟いて僕も玄関へと向かうことにした。
またこうしている間にも月日は過ぎて行く。
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