ある日
王になることは生まれたときから決まっていた。
決められたレールの上を歩くのが嫌で、自分の血筋から逃れたい王子の話というのはよくあるが、生憎おれはそれには当てはまらなかった。おれは王になるべくして生まれた、そのためにならどんな努力も惜しまないと必死に生きていたのを覚えている。誰もがおれの実力を認めていたし、将来はきっと立派な王になると自分も思っていた。
ある日、住民たちに話を聞いてみると、どうやら周辺の森の様子がおかしいとの連絡を受けた。何者かがおれたちの境界へと踏み込んだらしい。おれはすぐに父上に報告した。父上はその偉大な力を使って外界の者が森へと踏み込まないよう施してくれた。おれもいつかこんなふうに民たちを守るんだろうな。と、根拠も無く思った。
それから何年たっただろう、当時の俺には時間の感覚なんてなかった。でもー……そうだな、おそらく十数年前はたってただろう。前に森に侵入者があったことなんかすっかり忘れてしまって、平和というぬるま湯にどっぷりと浸かってしまっていた時、ついに奴らは現れたんだ。朝起きて最初に俺の目に飛び込んでは真っ赤に燃える森だったよ。それから住民たち。
ユリ、ガーベラ、スイートピー。ポインセチアやバラ。
昨日まで沢山の色で溢れていた住民たちはみんな赤色に燃えて見分けがつかなくなっていた。
おしゃべりなヒマワリも、おしとやかなモクレンも、誰の声も聞こえなかった。
ふと足音が聞こえて俺はとっさに姿を消した。土壌を住処とする俺たちにとって地面を、草花を踏みしめるその足音は危険以外の何者でもないからだ。
何やら手に炎のついた木をもったそいつらは、森で1番大きなサクラの木ーー父上の方向に向かって行った。
「この木が俺達を誑かして森を通り抜けられなくしている魔物の正体だな!」
「おい!火を持ってこい !」
奴らはサクラの木に沢山の火を投げ込んでた。それなのに俺はなにをする訳でもなくただ突っ立てたんだ。目の前で父上が殺されているってのに俺は何もできなかったんだよ。
それからどのくらいたったかな。結局、辺りの足音が消え去って火が全て収まっても、俺はずっとその場にたっていることしかできなかったよ。結局残ったのは俺、水の上に図々しくも咲いていたスイレンの花だけ。王になるなんてほんと笑えるよ。なるべくして生まれた?じゃあなんで俺はただ立っていた?どうして誰も、父親ですらも救えなかった?
俺がまだ王になると信じて疑わなかった頃、俺には夢があった。この森を、もっと沢山の住民、花々でいっぱいにしたかったんだ。でも、この黒く焦げた何も無い大地をみちゃったらさ、あんなに簡単に描いていた夢を、今はもう見るとこさえ出来ないんだよね。
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