第21話 大阪編3 大阪ってDV多くないか?と思った話

201*年 冬。

大阪府A市。契約者B 女性 52歳。

延滞3ヶ月分。


部屋への出入りは少なくとも1週間前までは確認している。

しかしこれまで全く接触できなかった。スマホから着信音が鳴る。Bからだ。まさか。驚いた。


──3か月前から部屋には戻っていない。同居していた男性からDVを受けており逃げ出した。子供が2人いたが、別れた夫に預けた。自分が払ってないから、延滞が発生している。

自分は今一人で全く違う場所に住んでいる。兄に部屋を昨日見に行ってもらったが同居男性は既にいなくなったようだ。家財道具はすべて処分してかまわない。鍵は郵送する。


ああ、そうかい。まあ、解決だ。



同年同月。

大阪府C市。契約者D 女性 26歳。

延滞3ヶ月分。


もとより既にDが大阪府内の実家へ出て行っている申告は、彼女の母親から受けていた。


夫Eとは離婚済。

別れたEが部屋を占有している。



会うと殴られるので会えないし、怒鳴るだけなのでEとは話もできないという。

確かにその通りで、一度インターホン越しに男性と話した。

「なんやオラ!オマエ!何しに来たんや!」──家賃保証会社だと言っているのに、この言葉を壊れたテープレコーダーのように延々と叫んでいた。ただし、玄関ドアが開く事はなく、あくまでずっとインターホン越しに叫んでいるのである。なんだ、コイツは、と思った。


結局、明け渡しの裁判を起こす、出て行かないと警察にも届ける──Dの母親からEの母親へ伝えてもらう事で、彼はどこかへ出て行った。


換金できそうな家財道具は、Dの衣服も含めて無くなっていた。


まあ、これも解決だ。


同年同月。

大阪府F市 契約者G 女性 41歳。


延滞2ヶ月分を越えた頃、契約者から電話が入った。


──夫からのDVにより子供を連れて逃げ出した。夫Fは精神病だ。

逃げ出すと同時に離婚届は出した。

生活保護世帯だったがGの転居により、G自身は当然生活保護受給は切れている。

夫がその後生活保護を受給しているのかはわからない。



訪問するが、出入りはある。電気もガスも止まっているが、誰かが占有している。

確かに、出入りはある。

Gの住民票は転居しており、姓も変更されている。逃げ出したという申告に嘘はあるまい。

ただどうにも、Fと接触できない。

GはFへ接触する気はないという。暴力が怖いので会いにいくつもりもないと主張する。


たぶんFが占有している部屋のあるマンションを見上げる。明渡訴訟を提起するしかないか──と考えながら車に戻る。



解決は、いつになる?



エンジンキーを回し、胸中で呟く──「けどさ、大阪って、DV多くないか?」



これは偏見かもしれないし、事実なのかもしれない。

例えば産経新聞のウェブサイトには「なんと島根の70倍! DV相談、全国最多は大阪府警 全国では初の7万件超えで14年連続増」という記事がある。(2018年3月15日)



ただし、この元となった警視庁のデータとやらが私には見つけられなかった。


代わりに内閣府男女共同参画局がまとめた「配偶者暴力相談支援センターの相談件数(2017年)」によると、東京14098件、大阪6748件であり、兵庫が8373件である。


これであれば人口比においても絶対数においても、少なくとも2017年は大阪は全国1位ではない。

まあ、産経新聞もこういうので間違った事は書かないだろうから、きっと大阪が1位というのも事実ではあるのだろう。



201*年 春。


東京都H区。契約者J 女性 20歳。

家賃9万円。職業 派遣社員 月収20万。地方から上京と同時に入居。直後に退職。

元々派遣という登録だけで実際に働いていたのかもわからない。


最初の支払いから延滞。そして不定期に全く家賃に見合わない僅かな金額を入金していたが、それも窮まった。延滞3ヶ月分。部屋の契約は既に解除されている。


電話に出ず、SMSばかりで連絡をしてくる人間だった。

訴訟を提起すると伝えると、電話がかかってきた。

言うては悪いが、仮にも成人しているとは思えないアホウのような口調で驚いた。

攻撃的、ではない。本当に、社会常識が欠落しているのだ。

日本の賃貸物件は、殆どが前家賃だ。12月分の家賃は、11月27日や11月末日までに支払う。

それすら認識していない事には驚愕した。


今後どうするか、話をする必要があるため会社に呼んだ。

実は同居していた彼氏と来るという。

上京してから出会った──入居から半年も経っていないのだから、その程度の付き合い。


金髪の男と共に、いかにも田舎から出てきましたという女性と私は向かい合っていた。

男は22歳だったが、別に攻撃的ではない。東京に実家があるらしいが帰る事はできないし、生活保護家庭のため寝泊りできるスペースもないとは言っていた。


ただ、家賃が払えてないから住めないが、じゃあどうする?──という事に対して、今朝の今朝まで何も考えてなかった事は会話して理解できた。


住み込み出来る派遣の仕事の面接に、2人で行くと言って帰っていった。

転居先が決まれば出て行くと。

実際、男は契約者ではないのだから、Jが出て行くかどうかが重要なのだ。だから当然Jに私は話しかけるが、彼女は、何を質問しても彼氏に判断と今後に行動を委ねていた。



1週間後の朝、Jから電話が入った。



地方へ住み込みの仕事が決まった。今朝部屋を出た。ポストに鍵を入れておくから家財道具は処分しておいてほしい──いや、いいけどさ、お前らは、責任感とか、ないのか。


ただ、2人はとても頭の悪いカップルだったが、仲は悪くはなかった。今後どうなるのか、知らないが。



経験から、改めて思うのだ──大阪って、DV多くないか?



私は東京でも大阪でも家賃保証の仕事をしていたし、現在もしているが、東京では、DV被害というのは聞いた記憶がない。忘れているだけかもしれないが、本当にあまり記憶にないのだ。


もちろん、実際には東京でも大阪でもDVはあるに決まっている。

ただ、大阪はちょっと多すぎないか? と思うのだ。


そして、お気づきだろうか。

上記DV被害者の女性は全て自身で部屋を契約している。


男女差別の意図は一切無いがあえて書く。

外国では知らないが、夫や、同居する男性がいる場合──普通、部屋の契約は男性が多いのではないだろうか。

男性が契約し、女性と同居する。



Jのような、東京在住だった20歳かそこらの男が転がり込んできたというのなら話も少し違うだろうが、れっきとした夫であり、或いは中年の男性だ。

普通、契約者は男性側になると思うのだ。


あなたの周りではどうだろうか?

私の周囲では、ちょっと、女性名義の部屋に住んでいる男というのは、見かけない。


これは、男性側が収入が一般的には多いので、部屋を借りやすいというのもあるし、社会慣行としても、名義は男性にするのではないかと思う。


もちろん、ここに出てきた男性達は、自身では部屋が借りれないというのは推察できる。収入が不安定に過ぎたり、他の問題があったり。


私は未婚だし成人してから誰かと同居した経験がないのであまり言えないが、DV加害者になる気持ちというのはよくわからない。


ただ、たくさんの被害者や加害者がいるのだと思う。

あなたの周囲にはいるだろうか?


加害者がいれば被害者もいる。殺人も窃盗も人類が滅亡するまで無くならないと思うが、私が問題に思うのは、被害者とそうでない人の断絶。

DV被害者=持たざる者と、後述する港区在住の人=持てる者の断絶だ。



全てがそうではないのかもしれないが、私はDVは究極的には経済問題だと思っている。


男女共にカネがあるなら、嫌な状態に甘んじてはいないだろう。さっさと離れる。カネがあれば気持ちに余裕もできる。

カネがあるのに好きでぶん殴られているのなら、それはたぶん趣味なので放っておけば良い。


金持ちがDV被害で死んだという話は聞いた事がないように思う。


あえて「持てる者」と書くが、確かに彼らは色々なものをもっている。金だったり、優れた配偶者であったり、庇護者であったり、稼げる、安定した仕事であったり。


そうであればこそ、持てる者が持たざる者への想像力を失う──断絶する。これを私は、本当に恐ろしいことだと思う。


一例をあげる。

東京都港区の南青山に児童相談所も含めた複合施設「家庭総合支援センター」を作る──が、住民が反対しているというニュースの続報を朝日新聞デジタル (2018/12/15)で読んだ。

「保健所がある三田に作ればいいのでは?」

「(南青山は)物価が高く、学校レベルも高い。施設の子が来ればつらい気持ちになるのではないか」

「土地の価値を下げないでほしい」、などなどの、住民の声が掲載されていた。



もしこれが本当に発言されたのなら、凄い事である。

家庭総合支援センターへ相談に行かざるを得ない人というのは、「母子生活支援施設」も併設される事からも、どちらかといえば困窮したシングルマザーなどの弱者だろう。


彼女らは南青山に存在するなという事なのだろうか。


違う意見もあるだろうが──私は成城マダムの豪邸の隣に家賃5万円の安っぽいアパートが存在する日本の風土は、そう悪いものではないと思っている。

断絶は無い方が、スラムも形成し難いと思うからだ。


だが、この家庭総合支援センター建設に反対している人は、明確な断絶と区分を希望しているのだ。

自分が弱者になって排除される側に立つ可能性など、ありえないと思っているのだろう。



私は、お金に困った人と話す仕事だ。資本主義社会では彼らは弱者だ。

だが弱者でも、うまくやっていける人間と、自分から追い詰められているような人間がいる。

もちろん、悪人から追い詰められる場合は別としても、ありがたい事に日本人の大部分は悪人ではない。

カネの督促を業とする我々もそうだ。サディストのような人間も確かにいるが、大部分はそうではない。

相手にとってそう悪くない提案もする。


だが、相手に嫌悪感を持てば──あえてこの世から転落する方向へ進むよう願い、場合によっては誘導する。


南青山に住んでいる人と家庭総合支援センターへ相談に行く人は断絶している。

だけど、本当に──時空が異なる程の違いなのか?境界は案外、薄いのかもしれない。


だとすれば、そんなに「他人を排斥する人間」、いや平たく「嫌な人間」にはならない方が──自分が困った時には助かるよ、と思うのだ。


私の友人知人には、DV被害者はいないように思える。

だけど世の中には、たくさんいるのだ。


家賃を延滞して訴訟を起こされている友人知人も、ちょっと思い浮かばない。

だけど世の中には、たくさんいるのだ。


たくさんいるのだから、自分がそちら側にならないと誰が断言できるのか。


時空の違う世界の話ではないのだ。

ちょっと病気になったり、運が悪かったりすれば、そちら側にいってしまうのではないのか?


そうであるなら自己防衛のためにも、あんまり嫌な人間には、ならない方が良い。


ちなみに地方出身者でお酒が好きでお金持ちでもない私は、好きな東京の街は西荻窪や高円寺だ。

港区は南青山はもちろん新橋や虎ノ門も含めて、全く好きではない。

仮に明日どこかの国から超低空での核攻撃を受けて、港区が二度と人の住めない地域と化したとしても、正直な感想として、えらいこっちゃ、敵国へ死の鉄槌を!──とは思うだろうが、せめて港区で良かった、とも感じる予感がする事も付記しておく。

ここにも、断絶がある。人の感情なんて、そんなもんだ。


だからこそ──感情の断絶は、防止せねばならないのだ。取り返しがつかなくなる。

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