世界征服

水分活性

第1話

世界征服ができると思っていた。



6月15日。誕生日を迎えた自分のところに小学生の自分から手紙が届いた。小学校の授業などで将来の自分に宛てた手紙を書くという、良くあるアレだ。


宛名は、『○×さいの自分へ』

当時の先生は宛名をきちんと説明してくれなかったらしい。

文には一言。


『せかいせいふく してますか?』


何を考えていたのか、その一文しかなかった。…そういえば、小学生の自分はヒーローになって世界征服をするのが夢だった。そこには悪がいて、そいつを倒して世界征服。…どっちが悪だか分かったもんじゃないが、世界平和とかは考えてなかったから、今見ると多分俺の方が悪だ。


「あれ、アキ帰ってたの?…何それ、手紙?」


同居人のハルキが部屋にやってきて俺の手紙を横から覗き込んできた。恥ずかしかったので、とっさに隠す。


「なになに?ラブレター??恋人に隠し事はダメよー?」

そう茶化しながらもハルキは不安そうな顔をした。心配性か。


「違う。小学生の自分からの手紙だから見られると恥ずかしいだけ。…第一、ラブレターとかもらうわけないだろ。」


お前がいるのに、とはお調子者のこいつの事だ、言ったら絶対うるさいので言わないでおいた。


「小学生の自分からの手紙?今頃くるなんて珍しいね!俺、20歳の時に来て、めっちゃ笑ったの覚えてるwwアキは何て書いてあったの?」

「お前が言うなら言う。」

「えー俺?そりゃ世界征服してますかとかだわww小学生から世界目指すのかよwwとか思ったもん。」

「………。」


…ヤバイ。これは言いづらい。

黙っているとハルキは、「ん?」という顔をして、「あ、察し」というふうに口に手を当てた。


「〜〜〜っ仕方ないだろっ!!」

「何も言ってない笑!何も言ってない笑!」


ひとしきり笑った後、ハルキは急に真面目な顔になった。まだ目には笑いすぎて涙が浮かんでいるが。


「俺ら大学からの付き合いだけど、結構前から目指すもの同じだったんだね。なんか、嬉しい。」

「 そりゃ、今も昔も変わらんと言いたいのか。」

「いや、違くて、…違くないけど、そうじゃなくて。世界征服、今目指してんじゃん?」

「平社員だけどな。」

「将来有望株が何を言う。」

「次期社長には頭が上がらんわ。」


確かに、俺らは今世界征服を目指している。正確には世界シェアNO.1だ。ハルキは、俺らが勤めている会社の御曹司だ。そのため、大学時代からハルキはアレコレと経営に関わることをやってきた。俺はそれを友人として側で見ていて、色々あって今の位置に落ち着いた。


「あの時、アキに告白してよかったよ。じゃなきゃ、俺は今頃ダメになってたと思う。俺の側にいてくれてありがとう。」


何を突然。俺がポカンとしていると、ハルキはそのまま恥ずかしい台詞を続けようとしたので、俺はハルキの口を押さえた。こいつは何を言い出すんだ。俺の心臓がもたない。


「…んんんっ何すんの!あれま、顔真っ赤じゃん。か〜わいい〜!!」

「や、やめろ!可愛がるな!あっちょ、こら!どこ触ってんだ!!」

「あ〜俺、今超幸せ〜。アキ、脇腹とか首とか弱いよね〜そういうとこ可愛い。でも仕事してる時のアキはカッコいい。惚れ直す。俺のフォローとかも、さり気なくしてくれて惚れ直す。仕事早いのマジ尊敬する。惚れ直す、好き。どんだけ惚れさせれば気がすむんだ〜!!ずるいぞー!!!!好きだー!!!!」


こいつはもう手遅れだ。俺はされるがまま、撫でくりまわされた。先ほどの恥ずかしい言葉たちはそっくりそのままハルキに返したかったが、俺はハルキほど素直じゃない。

なので、少しだけ反撃。


「俺だってお前のこと尊敬してる。」


ハルキは、うれしそうに笑う。たぶん、まだ言って欲しいんだと思うが。

…世界征服を、ハルキと共に叶えたあかつきには、こいつが真っ赤になるくらいの言葉を言ってやろう。いつになるか分からないが、絶対に。そう決意した誕生日だった。

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