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「今日は仕事休みなのか?」

「もう上がったんだよ。これから予定あるから」

 パチン、と飛ばされたウインクに「あぁ」と納得。明日はバレンタインだもんな。多分、彼女の家に泊まるんだろう。そうかそうか、楽しそうだな。

「大学遅刻すんなよ」

「モーニングコールして起こしてね☆」

「あほか」

 てか番号知らねぇっての。

「そうそう、これ、はなちゃんに。店に置いてくるの忘れちゃって。残りは後で来ると思うよ」

「えっなに、ミヨからもあるの」

「お返し期待してるね」

「サービスするわ」

「やったっ」

 ってこれが狙いだったんだろ。毎年の事だしな。ホワイトデーには好きな酒を一杯ずつ作って返すってやつ。

「じゃぁね」

「んー」

 ミヨはピンク色のフォトジェニックな箱を置いてさっさと出て行った。俺に渡すチョコを店に置いて出るのを忘れて、もう一度帰るのも面倒だからここに寄ったのだろう。まったく男の娘だからって、こんなとこまでまめにしなくてもいいのに。同じ男なんだし。

「今の」

「え?」

 バックルームにチョコを置いて出て来たら志麻が眉根を寄せて訊いた。

「彼女?」

「違う」

 見た目女子だけど中身男だから。彼女持ちのバリバリの。

「貴方ってモテモテなのね」

「それほどでもないけどね」

 みんな義理なの知ってるし、モテるってのとはちょっと違う。

「ごちそう様」

 志麻は丁度の会計をテーブルに置くと、スッと立ち上がる。え、もう待ち合わせの時間になったわけ? さっき来たとこなのに。

 つかつかと歩き出した志麻に、駆け寄るとくるりと振り向いて言った。

「これ」

「え」

 目の前に差し出されたのはシックなネイビーの小箱。ゴールドのリボンが掛けられている。

「貴方のことだからきっと沢山貰ったのだろうけど」

 箱越しに見た志麻の顔は

「私のはちゃんと覚えておいてよね」

 見たこともないくらい真っ赤だった。

 

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