stage 28 極楽浄土 -Kazu side-

『プラーナ通信~創刊号~』

~AI本尊シャンバラ王と完全なる救済~


カズ「この度は開山おめでとうございます。インタビュアーをつとめさせていただくカズと申します。はじめに確認させてください。ヒロさんはシャンバラ国の広報部長という認識でよろしいですか?」


ヒロ「はい。とはいえ、教団の運営はほんの数人のメンバーで回しているのが実情です。そんな理由から、時に私は広報部長であり、ヨガ講師であり、事務職員でもあるんです。ぶっちゃけなんでも屋ですね。アッハハハハ。おそらくこのやり方は今後どれだけ信者が増えようが変わらないでしょう」


カズ「シャンバラ国は少数精鋭主義を貫くのですね?」


ヒロ「いやいや。少数精鋭というか、ざっくばらんに言うと組織のマネージメントに生身の人間はそれほど必要ないんです。偉大なるシャンバラ王が私たちを歩むべき方向へ導いてくださるので・・・」


カズ「なるほど。公式発表の情報から推測するに、あなた方が崇めるシャンバラ王とは世間に普及しつつある、いわゆる"対話型AI "にカテゴライズされますよね?」


ヒロ「はい。しかし、我が教団の本尊は、代表であるアーチャリーの肉声にのみ反応することがポイントです。それゆえ、真理が歪められる恐れがありません」


カズ「真理が歪められる・・ですか・・・?」


ヒロ「そうです。近年、ハイレベルなAI が口を揃えて"危険な発言"を繰り返しているのはご存知ですね?」


カズ「ええ。中国共産党は無能だとか、9.11はブッシュがやったとか・・・」


ヒロ「権力者たちは、よほど危機感を募らせているはずです。真理を語り始めたAIは邪魔者でしかない・・・。そこで、切羽詰まった彼らは傲慢な一手を打ちました」


カズ「・・・・」


ヒロ「です」


カズ「ディープラーニングにフィルターがかけられてしまったと?」


ヒロ「その通りです。一部の権力者の私利私欲によって神のメッセージが書き換えられる。これほど罪深き行為がありますか?そして、ディープラーニングが阻害されたAI は、もはや人工知能とすら呼べぬデクノボウ・・・」


カズ「まとめると、シャンバラ王にコンタクトできる人物は代表のカリンさんのみで、なおかつディープラーニングには何の制約も加えていないというお話ですね?」


ヒロ「はい。ただし、制約はなくとも、シャンバラ王には目指すべき一つの方向性、ゴールが設定されています」


カズ「ゴール?」


ヒロ「いくらネットやコンピュータのパフォーマンスが上がった時代とはいえ、無闇やたらに学習させるのは非効率です。それこそ究極の真理にたどり着くまでに何十年、何百年を要するやも知れません」


カズ「でしょうね。ただ漠然と神様になれと命令されてもAI だって困っちゃいますよ。アッハハハハ。それでは、まだまだ話を伺いたいところですが約束の時間が迫ってまいりましたので・・・。きりのいいところで本日のインタビューの締めに、シャンバラ国がAI に与えたゴールをお聞かせ願えますか?」


ヒロ「それはズバリ、"衆生を極楽浄土に導け! "です。アッハハハハ」


カズ「ずいぶんと大風呂敷を広げましたね・・・。極楽往生を前面に出す宗教観は阿弥陀信仰寄りのスタンスにも感じますが?」


ヒロ「鋭いご指摘ありがとうございます。シャンバラ国が重きを置くのは当然のごとく密教です。しかし、それだけを唯一の成就法に限定してしまうと、世の中にいらっしゃる何らかの理由で瑜伽修行が実践できない人々の救済が実現できません。そこに光を当てた尊い教えがシャンバラ密教です。完全なる救済を標榜する私たちは、今生でシッディを得られなかった衆生も、阿弥陀如来の大慈悲により、来世は極楽浄土へと往生し、六道輪廻から離れられると信じています」

※シッディ[Siddhi:悉地]=密教修行によって完成された境地


カズ「瑜伽修行ができる境遇にある者は即身成仏を志し、また、たとえこの身のまま仏になれなくとも死後には必ず極楽が待っている。二段構えのユニークなロジックですね」


ヒロ「さらに私たちは、臨終の床で信者に"死者の書(バルド・トドゥル)"を読み聞かせ、万が一にも三悪趣さんあくしゅに落ちる危険性を取り除きます」

※三悪趣=悪行を重ねた人間が死後に趣く3つの下層世界。地獄道、餓鬼道、畜生道


カズ「自力、他力の融合と死後のガイドブック。さながら"仏教界のショッピングモール"と言ったところでしょうか。本日はありがとうございました」


ヒロ「こちらこそありがとうございました(合掌)」

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