stage 27 虹の階梯 -Naoki side-

 抜けるような青空に恵まれた「開山セレモニー」は、全国から集まったシャンバラ信者と、マスコミ、市民団体、右翼、左翼、野次馬、YouTuberなどがひしめき合うビッグイベントになった。


 俺は、道場2階の事務室から、やっと一息つけたヒロとともに防犯カメラがとらえる外の喧騒を眺めていた。


「ナオキさん。良くも悪くも、教団への注目度の高さがうかがえますねぇ」


「おかげで屈強な機動隊が無料で張り付いてくれるとなりゃ願ったり叶ったり。この騒ぎなら、どこのテレビ局も夕方のニュースで取り上げざるを得ないはずだ。なんてあってたまるか」


「早急に経本の手配をかけないと・・・」


「いい読みだ。これでまた入信希望者が殺到だぜ」


「喜ばしい限りです」


「俺も下で何か手伝ってやりてーとこだけどよ。こんな面構えの男がうろついてたら、どんな捏造記事を書かれるか分かったもんじゃねー」


「アッハハハ。大丈夫ですよ。ナオキさんはバックでどっしりと構えててください。表の仕事は僕とアーチャリーの役目です」


「まぁな・・・。今によ、教団を潰したい連中が牙を向いてくるだろう。そん時が裏部隊の出番だ」


「・・・・・。否定はしません。力で良い世界をつくる。これがタントラ・ヴァジラヤーナです」


「よしっ!あれこれ考えてても埒が明かねー。ヒロ、最終的に決まったスケジュールを聞かせてくれ」


「はい。えぇ、10時に僕が開山宣言をさせてもらった後に、代表アーチャリーの法話、信者一同によるマントラの斉唱、続いてチベット亡命政府から招いたラマが主導の結縁灌頂けちえんかんじょうまでが午前中の予定です。そして、昼休憩を挟んでからは、修行が進んだ出家信者を対象に秘密集会タントラの灌頂を授けていただきます」


     ※     ※


『結縁灌頂(けちえんかんじょう)』

灌頂を受ける者に目隠しをほどこし、曼荼羅へ導いて華を投げさせる。この華が落ちた場所の仏菩薩が受者の守り本尊となり、以上の儀式をもって菩薩戒を誓った信者は固く仏縁で結ばれるのである。


     ※     ※


「OK。それにしてもラマの灌頂はボッタクリ過ぎだろ・・・。なるたけ早くシャンバラ自前の灌頂が授けられるようにならねーと」


「現時点でその可能性があるとすれば、代表のアーチャリーは別格として、他にはアヤカさんと、手前味噌ながらこの僕くらいでしょうか・・・。いつになるやも知れぬ虹の階梯です」


「どの段階になりゃラマの資格が得られるっていう明確なラインがねーからな。ドラゴンボールのスカウターみてーに、サクッと力量が測れるガジェットがありゃ便利なんだけどよ。アッハハハハハ」


「そこは我が教団が誇るIT部隊の領域ですね。開発が成功した暁にはヴァジュラスカウターとでも命名しますか。アッハハハハ。ヨシキさんアルチャさんペアが作った"修行アプリ"のリリースも待ちきれません」


「修行アプリ?あぁ・・・。ようやくApp Storeの審査が通ったみてーだな。あんなもんに引っかかるほど日本人は幼稚じゃねえだろ?アイツら自身が単なる遊び心だって言ってるくらいだからよ」


「そ、そうなんですね。ちょっとガッカリです・・・。さぁ、そろそろ僕は現場に戻らないと。ナオキさん、モニター越しにですがセレモニーの成功を見守ってください」

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