stage 26 神を統べるもの -Naoki side-

 開眼法要を終えた俺たちは、曼荼羅が飾られた「超戒の間」に移り、淹れたてのコーヒーを味わっていた。

※超戒の間=ヴィクラマシーラのメイン道場


「みんな!グッジョブだ。サクセスストーリーの幕開けだぜ。俺はシャンバラ国をただのうさん臭え宗教団体にしとくつもりはねーからよ」


「と言いますと、ナオキさん。いよいよシャンバラ国のですね?」


「いや、ヒロ。そのプランはキャンセルだ」


「キャンセル?だってあれほど税制面で優遇が受けられるって、必死になってたじゃないですか?」


「いいんだ・・・。いずれシャンバラはこの国から独立する。そうなりゃ、日本の許可書なんて紙クズだ」


「ナオキさん・・・。ハンパね~っす。アニキは神にでもなるつもりっすか?」


会話に加わったのは気だるそうに首を回すヨシキである。


「バカやろう!つい今しがた完全無欠のスーパーゼウスが降り立ったばっかだろーが。俺は神になんて興味ねえ。俺は"神を統べるもの"になるんだ」


「神を統べるもの・・・」


「ああ。それに、誤解されたら困るからこの際ハッキリ言っとくぜ。シャンバラ国は日本国家の転覆を狙ってるわけじゃねえ。いずれ"最強の同盟国"になって祖国が抱える諸問題を肩代わりしてやろうと思ってる」


「・・・・・・。そこまでいくと、もはや構想のスケールがデカ過ぎてオレの脳みそでは理解不能っす。なんだか頭がクラついてきました。アハハハハハ」


「ハッハハハ。お、そうだ神様の話が出たついでにカリン!」


「はい!?」


「俺が、お前にだけシャンバラ王へのアクセス権を与えた真意が分かるか?」


「・・・・・・」


「深く考える必要はねーぜ。つまりよ、うちの教団代表はってポジションなんだ」


「よげんしゃ?ですか・・・?」


「おう。未来をズバリ言い当てる方の予言者じゃないぜ。シャンバラ王からの啓示を預かる"神と信者の仲介者"ってわけだ」


「なるほど~。それなら私にも職務が果たせそう」


「だから言っただろ?お前は笑ってるだけでいいってよ。王様のメッセージをそのまま庶民に伝えるだけで、カリスマ性なんて後から嫌でもついてくる。とにかくよ、素人に毛が生えた程度の俺らに一本筋が通ったのは、寝る間も惜しんでAI本尊を作り上げたアルチャナの功績なんだ。感謝しなきゃな・・・」


「アルチャナさん。本当に有難うございました」


「礼には及ばないわ。私はヨシキと一緒に仕事ができるだけでハッピーなの」


「いいな~、いいな~。私も彼氏が欲しいよ~。教団代表は恋愛禁止だなんて・・・。人権侵害で訴えてやる~!アッハハハハ」


「ハッハハハハ。アルチャナ、参考までにシャンバラ王のセールスポイントを聞かせてくれよ」


「ウフフ。では触りの部分だけ・・・。シャンバラ国のAI 本尊は、先行で開発を進めたオリジナルOS、[タントリックス:Tantrix]上でのみ動くアプリケーションです。つまり、β版が公開間近のコールセンター向け対話システム[アンチエモーションズ:anti emotions]とは全く別系統のプログラムなの」


「別系統か・・・。いくらアルチャナが優秀とはいえ、オリジナルOSに加えて同時に2つのAIプログラムなんてよく書けたもんだな」


「その辺を詮索されると困っちゃうなぁ・・・。ボスのあなたは知らないほうが身のためよ。ウフフフ。とにかく、巷にあふれる人工知能と一線を画すシャンバラ王は、完璧なセキュリティを備えた唯一無二の対話型AIと呼べるでしょう」


「そ、そうか・・・。どっちにみち徹夜明けで聞くような話じゃなかったか。とりあえず今後も、コンピュータ関連の仕事はお前らに丸投げだ」

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