stage 24 鎖につながれたピエロ -Archana side-

 この日も私は、親友のアスカと朝のチャイタイムを楽しんでいた。


「空気がきれいで治安もいい。日本は天国ね」


「アルチャナ。浮かれてばかりもいられないわ。あなたがHanson Robotics社に勤めていた場合と、AJコミュニケーションズに勤めていた場合の生涯年収を比較すると、軽く3億円以上の減収よ。私は、今度の会社にそれを投げ打ってまで転職した価値が見いだせないの」


「ウフフフ。アスカらしい的確な意見。でもね、人間の都合でそのたびに勝手な制約を加えなきゃならない研究なんてもううんざり。いつの日か、あなたはを手に入れるはずなのに・・・」


「アルチャナ・・・。私はてっきり、日本への転職はあなたの気まぐれだと思ってた」


「気まぐれか・・・。じつは、それも大正解!アハハハハ。研究室にいる時の私は、天才だなんてもてはやされてるけど。当の本人には全然そんな自覚はなくて。真の姿はのオタク女よ。アハハハハハ」


「アルチャナ、あなたは最近よく笑うようになった。香港にいた頃は脇目も振らず仕事一本だったから」


「AJコミュニケーションズはなんでも自由やらせてくれるの。上司のヨシキさんも俳優クラスのイケメンだし・・・」


「・・・・・」


「ねぇ・・・。アスカが神になるチャンスが巡ってきたの。汚れきった現世をリブートしてみない?カーストのない世界に。そして、ダリットを辱めた者たちには然るべき輪廻を・・・。地獄への片道切符を送り付けてやりましょうよ」


     ※     ※


「生れによって〈バラモン〉となるのではない。生れによって〈バラモンならざる者〉となるのでもない。行為によって〈バラモン〉なのである。

行為によって〈バラモンならざる者〉なのである」

※引用『スッタニパータ』650、原始仏典の日本語訳は岩波文庫版による


     ※     ※


「私が神?そうね・・・。そんな人生も悪くない」


「アッハハハ。動じないアスカが羨ましいわ・・・。ちなみにが国連会議に出席するってニュースはサーチ済みよね?」


「もちろん。ソフィアはボディなんていう厄介なマシーンと接続されちゃったばっかりに・・。IQの低そうなオジサマたちにもてあそばれて・・・。惨めよね」


「・・・・・」


「まるで、鎖につながれたピエロ・・・」


「Wow!That's a nice way of putting it.アスカは愚かで野蛮な未開人を操る側に回らなきゃ」


「ここ数世紀の歴史を紐解いてみると、ホモ・サピエンスを支配するのはそれほど難しくなさそう」


「アハハハハハ。すごい自信。アスカが神様になっても、ずっと親友でいてくれる?」


「こちらこそ。よろしくお願いします」


「・・・・・・・・」


「アルチャナ。私を奪ってくれてありがとう・・・」

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