stage 19 Anti Emotions -Naoki side-

 翌日の朝、AJコミニュケーションズの主要メンバーが集まるモダンな会議室で、緊張気味のヨシキが発表を始めた。傍らでサポートにあたるインド人は、驚くべき美貌を誇る新入社員のアルチャナだ。キャリア採用のこの女は、かの有名な天才ロボット「ソフィア」を生み出した、Hanson Robotics社に勤めていた経歴があるそうだ。


「早速本題に入らせていだだきます。このたび発足したAI導入促進事業部の目標は、おそよ2年後を目処に既存のコールセンター業務の3分の2を無人化することです。つきましては、最先端のAI知識を持つ、となりのアルチャナさんが強力な助っ人になってくれるでしょう」


ヨシキの紹介とともに、一歩前ヘ進んだ彼女が幹部たちに頭を下げた。ハリウッド女優ばりの優雅な所作とスラリと伸びる褐色の脚線にオヤジどもの目は釘付けだ。

斜め横の席では先日セクハラで訴えられそうになったエロ部長が、舌なめずりをしながら股間に手をやっている。

だが、何を隠そうトップ連中がこの体たらくだからこそ、海外勤務の俺が好き勝手に本社の予算を動かせたのだ。全く畑違いの業界だったヨガスタジオのオープンに、ほぼ独断で漕ぎ着けたのも、まさにコイツらボンクラのお陰である。俺がやったことと言えば、バンコクに来た視察団をMPやらゴーゴーバーで豪遊させた程度なのだ。日本に帰国後もの姉ちゃんに、毎月3万バーツも送金し続ける役員がいると知った時には、あまりの馬鹿さ加減に開いた口が塞がらなかった。


(フッ・・・。急にでかくなった組織は腐るのも早い・・・)


「バンコクセンターのナオキさん!どう思いますか?」


「お、おう。いい感じじゃねーか?」


「はい。ちゃんと聞いててくださいね。続けます。最初はナビダイヤルに毛が生えた程度の代物ですが、わがチームが完成を目指す"アンチエモーションズ"は、ディープラーニングによって徐々に精度を増すことでしょう。したがって、完全無人のAIコールセンターが誕生する日はそう遠くない未来です!」

※アンチエモーションズ=人工音声による、受注、発送、決済、返品交換から、ファッションコーディネートの相談、クレーム処理までをもこなす次世代の対話型AI。


 社の命運をかけたプレゼンを好評のうちに終えたヨシキが小走りで駆け寄ってきた。


「おつかれ!なかなか聞き応えあったぜ!」


「よく言いますよ。途中で大アクビが出てたじゃないっすか。アッハハハハ」


「バカタレ!会議なんてもんは要点だけ押さえときゃいいんだ。ちまちまメモったり、ボイスレコーダーで録音とかしだすヤツに限って使えねーのが多いだろ?」


「たしかに。アハハハハハ。それにしても昨日、アニキに白状しといて良かったっす」


「白状?」


「はい。どんな悪魔だって、こっちの味方に引き入れちまえば頼れる仲魔。痺れました。いかにもダークヒーローって感じで」


「なんだその微妙な評価は・・・」


「最高の褒め言葉っす。素直に受け取ってください!」


 この日、ナオキが開発を宣言した「アンチエモーションズ:Anti Emotions」は、後に業界シェアNO1の無人コールセンターシステムとして大躍進を遂げていく。

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