【第三章】この日、私の「止まった時計」は動き出した・・・。
stage 18 悪魔の定義 -Naoki side-
半年ぶりで日本に戻った俺は、久々に顔を見る弟分のヨシキと酒を飲んでいた。
「よぉ、色男。ベリーショートがよく似合ってるぜ。東京センターの居心地はどうよ?大出世だな」
業績絶好調のAJコミニュケーションズは、今春から恵比寿の新オフィスに本社機能を移転させたばかりだった。また、それに合わせて主軸のコールセンター請負事業の他にいくつかの新部署が立ち上がり、有能なヨシキはとあるチームのトップに就いたのだ。
「仮想通貨取引所への参入に、IoTアプリのリリースラッシュ。うちの首脳陣はイケイケです・・・」
「あぁ。でもそれにしちゃあ冴えね表情だなぁ」
「ナオキさん。オレが任された部署ですが・・・」
「"AI導入促進事業部"つったらよ、今が一番熱い花形分野だろ?自信ねーのか?」
「いや・・・」
「歯切れがわりーな。俺とお前の仲だろーが。言ってみろや」
「・・・・・。それじゃ思い切って打ち明けます」
「・・・・・・」
「何だかオレ・・・。人工知能が怖いっす」
「は!?」
「世界中の学者か警鐘を鳴らしています。AIの進歩は人類の終焉を招く危険があるって」
「レイ・カーツワイルのシンギュラリティか?アッハハハハ。あんなインチキくせえオッサンの妄言を鵜呑みにする気かよ?」
※『シンギュラリティ(Singularity)』とは、人工知能の発達が急激な技術の成長を促し、人間文明に計り知れない変化をもたらすという仮説。
「笑えないっすよ。ただのハッタリじゃないっすから。この機会にオレも色々と調べてみました・・・。ナオキさん!残念ながら、人類は悪魔を呼びだそうとしているのかも知れません」
「なるほど・・・。冷静なヨシキがそこまで熱弁するからには、AIってのはかなりヤベーんだろうな。だけどよ、"残念ながら"ってところが俺の見解とはちょっぴりズレるぜ」
「なにニヤニヤしてんすか?また変なイタズラでも思いつきましたね?」
「アハハハハ。お前も言うようになったなぁ・・・」
「す、すみません・・・。調子に乗りました」
「いやいや、全然構わねー。だが改めて聞くが、そもそも悪魔の定義ってなんだ?他の誰かにとっちゃ救世主って可能性はねーか?」
「それはそうっすけど・・・」
「女神転生って神ゲーがあんだろ?どんな悪魔だって、一旦こっちの味方に引き入れちまえば頼れる"仲魔"だ」
「・・・・」
「俺は最高のイタズラを思いついたぜ。こいつをブチ当てるにはヨシキの力が必要だ」
「・・・・・」
「溜め込んだ偏見のコレクションをゴミ箱に投げ捨てろ。道徳も六法全書もクソ食らえ!」
「???」
「この世には正義も悪もない。要は二元論に囚われるなって話だ。どうだ?クールだろ?これがヴァジラヤーナだ!」
「プッ。ハッハハハ。妙に宗教づいてますねぇ。ナオキさんの口からヴァジラヤーナって・・・。まるでオウムみたいじゃないっすか」
「"み・た・い"じゃねーんだ。これはオウムの教えだぜ。いや、正確にはヒロの教えか・・・ 」
「・・・・・。やっぱりアニキは最高っす。言ってる意味はよくわからねーっすけどね。アッハハハハ。今夜は気が済むまで酔わせてもらいますよ~!」
「おう!どんどん飲め。スパッと切り替えて明日のプレゼンをカッコよくキメてくれよ!」
「ういっす!!」
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