stage 17 宗教をつくろう -Naoki side-

 アパートの一室からスタートした沙羅双樹は、早くも今月末に3店舗目のオープンが決まっている。テルマを練り込んだ特製クッキーの評判もすこぶる良く、コアなファン向けのと合わせて売れ行きは上々だ。


人材不足が懸念された講師陣は、ヒロが日本から呼び寄せた元オウム人脈で固め、スタジオ運営はネクストステージに進む段階にきていた。


「ヒロ、宗教色を強めるにはそろそろいい頃合いじゃねーか?会員たちは感じ取ってるはずだ。沙羅双樹のヨガはってな」


「はい。皆さんの喜びにあふれる顔つきを見れば一目瞭然です。これからはチベット文化の勉強会を開いたり、カリキュラムの前後にマントラを唱えたりと、自然体で密教に触れられる方向に誘導しましょう」

※マントラ=真言。神仏を礼賛する短い呪文。


「おう。それでいい」


「ナオキさん、それはともかく、アヤカさんがデモンストレーションで披露してくれた、"クンダリーニ覚醒"は凄まじいの一言です。死ぬ気で修行を重ねたサマナの中にも、あのレベルまで届いた信者はまずいません」


「だろ?なんでも姐さんは阿弥陀如来がおさめる西方極楽浄土の入口まで行った経験があるらしいぜ。最初はただのだと思って聞いてたけどよ。どうやらそうでもないらしいんだわ。口では上手く説明できねーけどさ。作り話じゃねーってのは良く分かる」


「口で言い表せない部分にこそ、仏教の真髄が秘されています。それゆえに、ヴァジラヤーナは感覚的に仏の世界を悟るための曼荼羅観想に長大な時間を割くんです」


     ※     ※


『曼荼羅』(まんだら)とは、密教の経典にもとづき、主尊を中心に諸仏諸尊の集会(しゅうえ)する楼閣を模式的に示した図像である。

古代インドに起源をもち、中央アジア、日本、中国、朝鮮半島、東南アジア諸国などへと伝わり、21世紀に至っても、密教の伝統が生きて伝存するチベットやネパールなどで盛んに制作されている。

※引用「曼荼羅」『フリー百科事典・ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)。2018年3月5日13時(日本時間)現在での最新版を取得。


     ※     ※


「あの方が指導者なら、名ばかりのなんて目じゃありません。僕はもう一息で完成する教義づくりを急ぎます!」


「任せたぜヒロ。宗教団体の設立には確固たるオリジナル教義が必要だ。他宗派をまんまパクるだけじゃ芸がない」


「ご安心ください。タントラ経典郡と浄土信仰の要素を兼ねた"ハイパー密教"に仕上げてみせます」


「よしっ!その意気だ」


(さてと・・・。優秀な実践指導者がいる。神秘的な教義も完成間近とくれば、残りのピースはあと一つ)


「ヒロ、尻を叩くようでようで悪いが、日本にいるの件も忘れんな!」


「りょうかいです。全力でアポをとりましょう」

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