stage 12 タントラ・ヴァジラヤーナ -Naoki side-
ローカルバスの20倍の料金を支払って乗ったタクシーは、一路、ヴァンビエンに向かっていた。
ワットタイ国際空港のイミグレで、相棒のヒロが見事「別室行き」を食らったため、予定は既に2時間ほど押している。
「スミマセン、僕のせいで・・・」
「クルタと長髪はヒロのポリシーだもんなぁ。しかたねーぜ。だけどな、これから会うジンって男は時間にうるせーんだ。機嫌を損ねたら何されるか分かんねーぞ。俺はしーらねーっと。アッハハハハ」
「ナ、ナオキさん。あんまり脅かさないでくださいよー。知っての通り僕は小心者なんですから・・・」
「ハッハハハ。ところでよ、お前のその、なんだ、修業?ってのは進んでんのか?明日にも麻原は処刑されるかもな・・・。オウムの死刑確定者が一斉に東京拘置所から移されたニュースはブッたまげたぜ。ヤツらを擁護するわけじゃねーが、前代未聞の大事件を有耶無耶にしちまっていいのかよ」
「・・・・・。いつかは僕も尊師や兄たちの呪縛から脱却しなきゃって思ってます。ですが、オウムが教義に取り入れたチベット密教については、これからもずっと実践し続けるでしょう」
「チベット密教かぁ。俺もダライ・ラマのファンではあるんだけどよ。性のイニシエーションだのポアだのって・・・。あれは本当に釈迦の教えなのか?」
「密教の教義は非常に難解で、深淵で・・・。一口に說明するのは不可能です。仏陀が分かりやすい言葉で説いた[顕教:けんぎょう]、つまり世間一般に知られた仏教に対し、神秘的・呪術的な要素を多く含むため、ラマ(高僧)から弟子へと厳格なルールを持って、秘密裏に作法が伝えられた教えを[密教:みっきょう]と呼びます。浄、不浄の区別なく、全てをありのままに観るタントラ・ヴァジラヤーナ[金剛乗]こそが即身成仏への唯一の道です。性をタブー視する宗教では真理の法は説けません。煩悩の本質を見つめ、ほとばしるSEXのエネルギーを最高の悟りへと転化するんです!」
「・・・・・・・」
ヒロの長い説法を聞いているうちに、タクシーは例の寺の前に到着した。
「ナオキさん、なかなかいい感じじゃないですか。典型的なテーラワーダ様式の佇まいですねぇ」
「ほぉ。ヒロは詳しいなぁ」
「仏教関連の本だったら何十冊読み漁ったことか・・・。完全に偏った教養です。アハハハハ」
「近い将来、お前の豊富な知識が必ず役に立つ日がくるだろうよ」
「・・・・・」
「さぁ、行くぞ!」
※ ※
5ヶ月ぶりの地下室に「テルマ」が植わったプランターが整然と並んでいる。
「アッハハハハ。ナオキさん、なんだかドラクエみたいですねぇ」
「お、おう・・・」
チョロチョロと音を立てる液体肥料。
豪快な風で空気をかき混ぜるサーキュレーター。
アルミで覆われたシルバーの壁は、周囲からの反射光を大麻草に当てるためだ。
俺は、立ち昇る湿気と青臭さで今にもむせ返りそうだった。
目を輝かせる二人が奥に進んでいくと、バッズを観察するジンがキッとこちらを睨みつけてきた。
「おい!!遅かったじゃねーか!」
「よお。わりぃなジン。ちょっとばかし空港で手間取っちまってよ。約束通り今日は新入りを連れてきたぜ」
「よ、よろしく、お、お願いします・・・」
「ようこそラオスへ。私がナオキのビジネスパートナーのジンです」
「ハッハハハハ。ヒロ、コイツは随分とかしこまってるけどな、人を二、三人ぶっ殺してる悪党だぜ。気をつけろよ」
「コラ!ナオキ。余計な入れ知恵は止めてくれ。初対面の相方が誤解するぜ」
「・・・・・・・」
「ゼロの数が一つ足りねーんだよ!アッハハハハハハ」
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