stage 08 ナイフを持った少年 -Naoki side-

 翌朝、俺はヨンファのノックで目が覚めた。

カオチーとコーヒーを手に、恥ずかしげにはにかむ少年の顔には、"懐にナイフを忍ばせるギャング"とは思えぬ純朴さがある。

※カオチー=ラオス名物フランスパンサンドイッチ


夜中に降った大雨のせいで表のベランダはびしょ濡れだ。

それを見たヨンファはサッとGジャンを脱ぐと、ためらうことなく椅子の上に広げてくれた。


華奢な身体の左胸には「黒い龍」。

ドラゴンフラッグのシンボルが深々と刻まれている。


本拠地の中国はもちろんのこと、東南アジア各国からロシアに至るまで、この旗に盾突ける組織は皆無だそうだ。また、国際犯罪シンジゲートを束ねるドラゴンフラッグが日本の暴力団と異なる点は、徹底的な「少数精鋭性主義」を貫くところであろう。


「無駄に肥大化した組織は必ず自滅する」


ジンたちのやり方は、後に俺が起こすシャンバラ教団の運営方針に多大なヒント与えるのだが、それはまだ先の話だ。


「ヨンファ。ありがとな。でもよ、俺はお前のじゃねーんだ。気をつかう必要はないぜ」


俺のセリフを聞いたヨンファはニコッと一度微笑んだあとに、「11時に出発です」と、ボスが待つバンガローに戻っていった。


真正面に、霧のかかる風光明媚な絶景が広がっている。

具だくさんのフランスパンを甘いコーヒーといっしょに頬張っていると、朝日に照らされた山々がピンクからオレンジに装いを変えた。


(どんなしつけを受けたら、あんな少年に育っちまうんだ。まだまだ学校で友達とじゃれ合っててもいい年頃だろ・・・)


     ※     ※


 ジンたちを待つ間、宿のカフェで一服つけていると、ナムソン川の上流からタイヤチューブに乗っかった観光客が次々と流れてきた。川下りはヴァンビエンで一番人気のアクティビティだ。


「キャーキャー騒いでんじぇねーよ。阿呆丸出しじゃねーか。便所に行きたくなったらどうすんだ・・・」


ほどなくして、トレードマークの真っ白いシャツを羽織ったジンと、お供のヨンファが現れた。


「おう!ブラザー。よく寝れたか?なにボヤッとしてんだよ。オメーもチュービングがやりてーか?」


「全く興味ねー!!」


吐き捨てるように答えた俺は、吸い終えたジョイントを灰皿でもみ消した。

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