stage 07 プロシュート兄貴 -Naoki side-
ナムソン川沿いのリバービューバンガローズにチェックインを済ませた俺たちは、レストランが立ち並ぶ細い通りを歩いていた。
「おいジン。こんな街中にプラント候補の物件があんのかよ?てっきり俺はジャングルの奥地に分け入っていくもんとばかり思ってたぜ。この辺りはかつてのドラッグ天国だろ?」
「かつて?それは違う。今もヴァンビエンは現役バリバリのドラッグ天国だ。それを知ることができる店に連れてってやるよ。プラントの視察は明日でいい。今夜は地元の米焼酎を浴びるほど飲もうぜ」
「米焼酎って・・・ラ、ラオラーオか・・・。まぁいいや」
三人が門をくぐった怪しげな店は、あからさま過ぎて笑ってしまうほどのレゲエバーだった。ぼんやりと輝くラスタカラーの看板に、レゲエの神様がプリントされている。
スタッフたちは、皆ジンの顔なじみのようだ。一段高くなった特等席に通されるなり、ドレッドヘアーの店員がビアラオの氷セットと"名刺サイズのラミネートカード"を持ってきた。
「なんだよそれ?」
首を傾げる俺にジンが投げてよこしたカードには、なんともバラエティに富んだ裏メニューが踊っている。
「マリファナ、マジックマッシュルーム、オピウム、ハッピーバルーン・・・」
「アッハハハハ。ナオキ、たまげたか?一昔前のように店内で堂々とやるのは禁止だけどな。各自がホテルに戻ってキメるぶんにはお咎めなし。ヴァンビエンの品揃えは相変わらずだ」
「なるほど・・・。だけどよ、"堂々とやれない"ってところが気になるな」
「No Problem。この国の警察はドラゴンフラッグが買収済みだ。人身売買や拳銃はマズイが大麻くらいなら目をつぶってくれる。それに、ヴァンビエンにプラントを作る一番の強みは、既にここにはマリファナが売れる下地があるってことだ。勝手知ったる街で上客がつくまでの運転資金を賄うつもりだ」
「そこまで計算済みってわけか・・・。抜け目ないやつだぜ。お前は経営コンサルタントのライセンスでもあんのか?」
「ああ。裏社会の免状だがな・・・」
(こいつ・・・。やっぱりジンはだだの荒くれ者なんかじゃねーぜ。相当に頭が切れる男だ。用心してかからねーと食われちまうな)
※ ※
宴の終盤、奇遇にも俺はドラゴンフラッグがそこらのゴロツキとは違うと思い知らされるシーンに出くわした。
俺とジンが連れションから戻ると、グダグダに酔った白人グループが、一人残ったヨンファに向かって「つり目ポーズ」を作っていた。
このジェスチャーは、世界で流行する東アジア人に対しての侮辱行為である。
こんな時、俺はギャングの幹部がどんな対応をとるのか?と、興味深く成り行きを見守った。
「舐めやがって・・・。ぶっ殺してやる!!」
顔を紅潮させるヨンファがベルトバッグに手をかけた。
あの中には、レクサスの車内でテクニックを自慢していたバタフライナイフが入っている。
「やめとけヨンファ!!お前の負けだ!」
「・・・・・・」
「ブッ殺す・・・。ヨンファ、そんなダセー言葉は使っちゃダメだ。龍の旗に集う一族は、その言葉が頭に浮かんだ時には相手を仕留めてなきゃならねー・・・」
「・・・・・・」
「"ブッ殺した”"ら使ってもいい」
(・・・・・・・。ジン・・・。オメーはプロシュート兄貴か!)
※「プロシュート兄貴」とは、ジョジョの奇妙な冒険の第5部『黄金の風』に登場する暗殺チームのメンバーだ。数々の名言を残して散った「ジョジョマニア」感涙の超人気キャラクター。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます