stage 05 コールセンターのお仕事 -Naoki side-
俺の城である「アソークコールセンター」は、"近い将来、AIによって奪われる職業"とは思えぬほどの盛況ぶりだ。
つい先日破産した格安旅行会社の苦情受付に始まり、成人式当日にバックれた振り袖レンタル店の後処理業務、仮想通貨流出による取り付け騒ぎの無料相談窓口など、尋常じゃない量の仕事が舞い込んでいる。
このように、いざトラブルが起こった際に事態の収拾にあたるのは、それまで当該企業とは無縁だったクレーム対応のプロたちなのだ。
オペレーターが居並ぶフロアーでは、「待呼:まちこ」を知らせるLED掲示板が警告を重ねている。
それぞれのコールセンターによって呼び方は様々だが「待呼」とは、かかってきた電話を捌ききれずに回線が繋がったまま客が待っている状態を指す。この時、相手側には「ただいま大変混み合っています。しばらくお待ちください」などというアナウンスが流れ、オペレーターのPCには「待機人数」や「平均待機時間」が表示される。1本いくらでクライアントと代行契約を交わすアウトソースのコールセンターにとって、待呼はロス以外の何物でもない。言わば、魚影探知機に映った獲物を見す見す逃がすようなものだ。
「こんなに多忙じゃ、日本を脱出してきたオペレーターたちも逆にストレスが溜まるわなぁ・・・」
スマホの着信が鳴ったのは、管理者席に座った俺がそんな長い独り言を呟いた後だった。
「よぉ兄弟。調子はどうだ?」
「うぃーす!ジン。なにか進展でもあったのか?」
「ああ。ようやくプラントが作れそうな秘密基地候補が見つかった」
「そうか・・・。いよいよだな」
「計画は順調だ。次の月曜日にワットタイ国際空港で待ってるぜ」
その言葉を最後に、ジンはこちらの返事も聞かぬまま電話を切った。
良識ある一般庶民には意外に感じるかもしれないが、俺はこんなアイツのぶっきらぼうな性格が好きだった。
「Time is Money」いや、「Time is Life」。
時間は命そのものだ。
「ワットタイ国際空港つったらビエンチャンだな・・・。会社の経費でビジネスを取って、快適な空の旅と行こうか!」
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