stage 04 赤い目の二人 -Naoki side-
エントランスを出ると、表にはすぐそれと分かるハイラックスが停まっていた。濃いスモークフィルムのせいで中の状況までは確認できないが、勢い良くドアを開けた俺は車内に身を投げ入れた。
リアシートの奥で、大きなサングラスを掛けたジンがニヤリと唇の端を持ち上げている。
「The Beginning of a New Day」
ハンドルを握る刺青だらけのタイ人のとなりで、どこかの少数民族らしき小柄な男がナビを始めた。
「ナオキ、行き先を聞かねーのか?」
「ああ。どこだっていい。こっちは、そのまま拉致される覚悟だからな」
「アッハハハハ。面白い男だぜ。現場までは小一時間のドライブだ。ゆっくり楽しんでくれ」
そう言いながら、ジンは内ポケットから取り出したマルボロを放り投げてきた。
(!!!)
と、その刹那、俺の背筋に氷をあてられたような緊張が走る。
懐の影でキラリと光った物体は・・・。
(拳銃だ!!)
そして、そんな俺の動揺を見透かすように、ジンはフッと鼻で笑いながら予想外のセリフを吐いたのである。
「安心しろ。お前の分も用意がある」
※ ※
車窓に広がる田園風景を眺めながら細い田舎道を進んでいくと、運転手はひょんな場所で車を止めた。
「ロングネックビレッジ?って、おいおいジン。ここは今日、フアンを連れて来る予定だった観光スポットじゃねーか。チーム結成の記念撮影でもするつもりか?」
「バカ言うな。ついてこい!」
オフィスインフォメーションと書かれた村の入口から坂を下ると、道の両端でカレン族(首長族)が土産物を売る全長100メートルほどの通りに出た。真鍮の首輪をはめた女性たちが微笑む姿は、どこぞの旅番組で見た光景そのものだ。
「 头儿! 头儿!」(ボス!ボス!)
助手席にいた男の先導で、俺たち二人が肩を並べて歩いていると、あちこちから声がかかった。どうやらジンはこの界隈でも顔役のようだ。
「ナオキ、目的地はこの角を右に曲がったところだ」
※ ※
三角屋根のテッペンに申し訳程度の十字架が掲げられている。眼前に佇む「掘っ立て小屋」は、カレン族のためのキリスト教会だろう。
「ジン・・・。殊勝だな。商売を始める前に、これまでの過ちを懺悔する気になったのか?」
「チッ、冗談じゃねえ。見せたいブツがここにしまってある」
「ブツ?」
「ああ。はるばる海をこえてやってきた極上品だ」
※ ※
南京錠を開けた男に続いて二人が教会に入ると、10畳ほどの講堂の正面に質素な祭壇が設えてあった。日曜ともなれば、近隣に住む信徒たちが集まり、熱心な祈りを捧げているそうだ。
「オヤジ、例のものを持ってこい!」
男から小さな包みを受け取ったジンが、サッと袋の紐をほどいた。
「これって・・・。もしや!」
「おう。苦労したぜ。天井裏には他にも大量の種子が隠してある。なんせシンセミアの収穫は1回こっきりなもんでね・・・」
「すげーよ・・・。それだけのフェミナイズドシードがあればイケるかもな・・・」
※フェミナイズドシード=THC含有量が高い雌株発生の割合がほぼ100%の特殊な大麻種子
「賽は投げられた。今後もヤバイ仕事は俺たちドラゴンフラッグが請負う。お前は迷える子羊に道を示せ!」
その後、ジンがサンプルだと言って回しあったジョイントは、とんでもないトビだった。
大の字に寝そべった講堂に心地よい川風が舞い込んでくる。
ガッツリとキマった「赤い目」の二人はいつまでも語り会った。
皆がハッピーになれる世界。
まだ見ぬ未来の物語を・・・。
(神様。なんだか今日は素直に感じられるんだ。あなたの存在を・・・。俺は誓って言えるぜ。マリファナは絶対に悪なんかじゃねーって)
「導いてください。異端者たちを約束の地へ・・・」
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