第5話別世界

暗い岸辺をさまよっていると、光の精霊が、やってきた。

光の精霊は、少女を、導く。

白く光って、さきへと進んで行く。

喫茶店がたっている。暗闇に。光は、消える。

庭があり、ぼんやり、ひかっている。宝石でできた、草花。

少女は、庭のふちからながめた。

いつのまにか、雨が降っている。不思議な、香りのする、雨が。

懐かしさがあふれる。少女は、失神しそうになる。魂の扉を、雨音が、たたく。

天使のまぼろしが、現れた。少女は、この喫茶店に入ってはいけないのだと、さとった。守護天使の幻影が、しかめつらで、たちふさがる。

喫茶店に、明かりがともる。まどから、ひかりが、こぼれる。あたたかい、ひかり。

うつくしい、子守唄。コーヒーの香り。ひとびとの、ざわめき。

異界の、光と影。

帰ってこられなくなった、ひとびと。

少女は、みぶるいした。

小人を、探さなくては。

向こう側にいったら、帰ってこられない。

猫は、きまぐれに、なにをしているのか。

魔力をもった猫は、翼をはやし、飛ぶことだってできる。

かれらには、かれらのせかいがあって、猫の町が、この宇宙のどこかに、あるのだろう。詩人が、そんなふうに、言っていた。

萩原朔太郎とかいう。

雨が強くなって、天使たちが、増える。喫茶店は、消え、あやしい、いやらしい、音が、あたりにみちる。天使たちは、怒りの形相をあらわし、聖なる炎が、別の次元で、燃え盛る。

ここにいては、いけないのだ。

死者の家。腐敗の場所。処刑場。

血の流れ、けがらわしい。

天使たちが、ぶつぶつ、つぶやく。

腐臭がしだした。少女は、たちさる。

からだから、体温が、消えてしまった。

猫が、あらわれた。ぶちぶちが、ぼんやり、ひかっている。翼をはやして浮かぶ。体温が回復する。

雨がやむ。暗闇のなかに、なにかがうごめく。猫が、火を吹く。魔法の猫。

照らし出されたのは、死神。

はっきりしない、くさかりがまをもった、すがた。

鎖につながれた小人が、そばにころがっていた。

迷宮の入口。扉がひらいて、死神はそこに、消えていった。

小人は、解放された。

死神は、少女のたましいを、みすかし、そうしたのだ。

小人は、手に、宝石を、握っていた。緑色に輝くそれは、庭の草花とはちがう、透明な光を放つ。私たちを導いてください、と、守護天使がつぶやく。

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