♯9 月影の魔導師
──帝国南の町、ナダ。
「なんか前より物騒になったなぁ」
帝国の腐敗ぶりは留まる所を知らない。子供が兵士にぶつかっただけでその場で斬り殺される。兵士に無害な盗賊は放置し、助けを求める者があればやかましいと斬り殺される。
「よぉ」
いきなり声をかけられ、勢いよく声のする方を振り向いた。
フードを深く被った者が立っていた。魔力からして二つ名だろうとルナは悟った。
「喧嘩はしませんよ?」
「いや、違う。ちょっといいかな」
フードの男はルナを狭い路地に導き、フードを取った。
「俺はハルマキ」
ルナは顔をしかめた。
「私、消されますか?」
ハルマキという変な名前の二つ名は一人しか知らない。ルナより強い魔剣士だ、ライバルを消しに来たのかもしれない。
「いやいや、協力して欲しくてさ」
「嫌ですぅ」
ルナは今にも泣きそうだ。最強の部類にあたる者にこき使われる未来が想像できる。断れば消されるかもしれない。
「今の帝国に不満あるだろ?俺は女王に頼まれて二つ名を集めて戦争の準備をしている」
「え、女王ってあの女王ですか?生きてたんですか?」
「あぁ。だから頼むよ」
戦争。平和主義者なルナには縁遠い言葉だった。
「戦争って、兵士を殺しまくるんですよね?」
「あぁ」
ルナは考え込んだ。私に人を殺せるのかと。
「女王陛下に会いに行っていいですか?」
「いいと思うけど、ザアラにいる頃だから2、3日はかかると思うよ」
ルナは杖を取り出した。
「ちょっと行ってきます」
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