♯55 囚われの竜
荒れ地が広がる広野に突如として現れた黒い城。城の周囲にはガーゴイルが無数に飛び回っている。
ハルマキは一歩踏み出した瞬間に、閃光が如く城へ飛んだ。
周りのガーゴイルがハルマキの姿を捉えられぬまま、城門をぶち破った。
中で待ち受けていたのは数百体の鬼だった。ハルマキは次々と首を跳ねた。数分も待たずに大広間の鬼を地に伏した。
階段を駆け登り、敵を退けながら進んだ。そして、邪悪な装飾が施された大きな扉の前に立った。
扉の向こう側からおぞましい魔力を感じる。ハルマキは息を整えて扉を蹴った。
ゆっくりと扉が開く。やがて冥界の王の姿が確認できた。
全身を隠すように刺の付いた鎧を身に纏っている。冥界の王はゆっくりと口を開いた。
「まさか一人で来るとはな」
兜で表情は見えない。
「お前を殺せばみんなは元に戻るんだな」
冥界の王は低い声で笑った。
「神は殺せぬ。倒れても即座に元の姿に戻る」
神。あの世の王だから、神の位置にいるのだろう。すぐにハルマキは理解した。
「わしを一度でも倒せたら、石化は解ける」
ハルマキの瞳に炎が宿った。
じめじめとした地面の冷たさを感じた。ゆっくりと瞼を開けた。鉄の柵の向こう側に蝋燭の火が見えた。
手足は鎖で繋がれている。ハルマキが一歩踏み出す前に冥界の王に敗れたのだ。
手足を動かしてみたが、腹と胸に激しい痛みを感じた。深く抉られていた。
炎が出ない。魔力を封じる結界が施されているのだろう。
例えここを抜け出せたとして、全快の状態でも負けたのだ、この傷では尚更勝てないだろう。
ハルマキはやり場のない怒りを噛み締めた。
数時間。あるいは数日経ったのかもしれない。ハルマキは瞳に炎を宿したまま一点を見つめていた。
寝ていない為か、体力は回復したものの疲労感が日に日に蓄積してゆく。
このままでは冥界の王を殺すどころか、自分も餓えて死んでしまうだろう。
必死に打開策を練っていた。その時だった。
「やぁ」
いきなり檻の前に人影が現れた。聞き覚えのある声だった。
「もう手は貸さないんじゃなかったか」
ローズは声を上げて笑った。
「君がもがき苦しむ姿を見たかっただけだよ」
「お前、性格ゴミ以下だな」
ローズは誉め言葉だね、と大鎌で檻の鉄格子を断ち切った。ハルマキを縛る鎖も難なく外した。
ローズはハルマキを背中におぶると、凄まじい勢いで廊下を駆け抜けた。
至るところに冥界の魔物の死骸が横たわっていた。
「来る途中に出会った敵は全部殺したけど、なんで敵は追って来ないのかな?」
これだけ派手に動いていたローズに敵は気付かない訳がない。逃げるなら勝手に逃げよ、お前らではわしには勝てぬ。そう言われたような気がした。ハルマキは奥歯を噛み締めた。
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