♯52 一人だけの世界






 空を飛び交うガーゴイルを警戒し、時に気付かれ炎で焼いた。全力疾走で城を目指した。


 城の外門に着いた時、平原に蠢くガーゴイル、鬼、悪魔の容姿をした異形の者が溢れていた。その数は数億ともとれた。


 城は墜ちたのか。女王やジャンヌ達は無事だろうか。城に行って確かめるしかない。


 「くそ!」


 地を殴った。乾いた地面に亀裂が入った。


 




 一体何がどうなっている。町や城だけではなく、世界中の人間が石化しているのではないか。


 なぜ自分だけ無事なのだろうか。何者かに泳がせられているのか。だとしても、何もしないよりかはいい筈だ。


 俺はみんなを元に戻す。そのためならば命すら惜しくはない。


 ハルマキの眼光が刃物のように鋭くなった。


 漆黒の剣を抜いた。奴らをなんとかしなければ、城へは入れないだろう。


 ハルマキは瞼を閉じた。そして、眼を見開いた瞬間に敵の群れへと突っ込んだ。






 ハルマキは舞うように敵を斬り伏せていった。なるべく体力を消耗しないように、無駄のない動きで戦った。


 敵の剣を最小限の動きで交わし、胸を剣で突き刺した。


 徐々にハルマキから思考がなくなって行く。


 押し寄せる敵を葬ることだけに特化しようとしているのだ。


 そして、ハルマキの思考が停止した。獣のようにひたすら目の前の敵を斬り伏せてゆく。





 そして一週間という永い時をハルマキは戦い続けた。魔物の数は減り続け、ハルマキは最後の一体を剣で沈めた。


 雨が降っている。ハルマキは空を煽り見た。暗い雲がかかった空。糸が切れたようにハルマキの体は地面に崩れ落ちた。


 一人の男が倒れたハルマキに駆け寄り、体を抱き抱えた。






 ハルマキは目を覚ました。ガーゴイルや鬼と戦った記憶はあるが、どれ程倒したかは覚えていない。全て倒せたのだろうか。


 薄暗い。ここはどこなのだろう。周りを見渡した。凹凸が激しい石の壁がある。奥に優しい光が差し込んでいる。光に導かれるように歩いていると、外へ出た。洞窟か、誰がここへ運んだのだ。そして、優しい光の正体は月の光だった。


 遠くの方に何かが飛んでいるのを見つけて、ゆっくりと洞窟の中へ戻った。


 薄暗い洞窟の奥、何かが足に当たった。


 器に乗った大量のパンと鍋に入ったシチュー。


 空腹に耐えきれず、パンに手を伸ばした。パンを頬張りシチューを飲んだ。すぐに完食した。

 

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