♯49 サイクリング
日も暮れかかった夕方。散策を終えたリディアら三人が部屋に戻ってきた。ジャンヌとダンテの両手には食べ物がぎっしり詰まった袋を携えている。
「ちゃんと試食して買ってきたから、みんなで食おうぜ」
皆がテーブルに置かれたお土産に手をつけた。
お土産か。後でみんなと買いに行くか。
そして夜になり、皆で風呂場へ向かった。セロリアには一緒に風呂に入る習慣がない。同性同士でも恥ずかしいようだ。いざ入ってしまうと、気持ちが良かった。そして風呂を出たあと夕食を別の部屋で食べ、女性陣は早くも布団をひき横になった。早くもスースーと寝息が聞こえる。
ダンテとロキ、ハルマキは窓側に置かれたテーブルを囲むように椅子に座っていた。ダンテとロキは日本酒を煽っていた。
「なぁ、ハルマキ」
ダンテが名前をちゃんと呼ぶのは珍しかった。
「お前、日本に残りたいとか思うか」
「俺は」
即答が出来なかった。アニスとリディアを探してから帰ると決めていた。だが、その役目は果たされた。
「俺はセロリアが好きだ」
「……そうか。日本はもういいのか?故郷なんだろ」
「あぁ、いい」
ハルマキの瞳には真っ直ぐセロリアを写し出していた。
「家族はいるのか」
ハルマキには家族はいる。だが、普通の家族の形をしていなかった。
「居るけど、会いたくない」
「色々あんだなぁ」
「何だ、気持ちわりぃ」
「もう日本には来ないつもりか」
「あぁ。色々思い出すしな」
「そうか」
ダンテとハルマキ、ロキの三人は窓から覗く月をしばらく見ていた。
朝。皆が続々と起きはじめる。
「おはよう。ん?」
リディアはまだ寝ていた。余程疲れていたのだろう。
「朝食が終わったら、10時までにここを出なきゃいけない」
皆は頷いた。
リディアをギリギリまで寝かしておいて、朝食の時間に起こした。皆は食事を終え、荷物を持って旅館を後にした。
「どこに向かってるの?」
歩きながらアニスがハルマキに問いかけた。
「自転車に乗る。そのあとお土産を買って帰る」
アニスの眼が輝いた。
「やった!」
7人は自転車を貸し出しているサイクリングショップへ向かった。
荷物をコインロッカーに預け、店員に身長に適した自転車を選んでもらった。自転車を押して店の外に出た。
「このサドルの所に左右から魔力を当てるんだ。そうすれば倒れないはずだ」
ハルマキの読み通り、皆は自転車に股がっても倒れなかった。
「まずはブレーキ。ここを握れば止まる」
皆はブレーキを確認した。
「ペダルを漕げば前に進む」
ハルマキを先頭に、一斉に町へと繰り出した。
アニスは満面の笑みを浮かべている。
「気持ちいいわ」
7人は町を自転車で駆け廻った。
サイクリングを終え、荷物をコインロッカーから出した。
「自転車、欲しいわ」
「は?壊れたら誰も修理できないぞ」
「また来ればいいじゃない!」
アニスは必死に自転車の魅力をアピールした。そして、自転車を購入することに決まった。
まずはお土産屋に立ち寄った。思い思いに買い物を楽しんだ。そして自転車屋へ向かった。
自転車屋へ到着した7人は、色んな種類の自転車に眼が泳いだ。
アニスは一機のピンク色の自転車の前で止まっていた。
ハルマキは値段を見て驚いたが、金は結構余っている。
「金余らしてもしょうがないから、好きなの行け」
アニスは目の前のピンク色の自転車を指差した。
「これにするわ」
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