♯46 ステーキの行方


 一歩後ろに下がった男たちは、女性陣によるセロリア風のじゃんけん大会を見守ることになった。見事に勝ったジャンヌが、コップを手にしてサーバーに置いた。迷う指はボタンからボタンへ往復して、メロンソーダのボタンを押した。カップへジュースが注がれてゆく。


 ジャンヌは嬉しそうに席に戻った。


 またしても次の順番を決めるためにじゃんけんが始まった。


 「早くしてくんねーかな……。」


 「おい、アホ。それは女王陛下に向けての言葉か」

 

 めんどくさい。ハルマキは心底そう思った。


 「終わったら呼んでくれ」


 ハルマキとロキはジャンヌが待つテーブルへ戻った。


 「美味いか?」


 ジャンヌはコクっコクっと頷いた。


 「そりゃ良かった。……日本は、どうだ?」


 ジャンヌはしばらく動きを止めていた。そして。


 「面白い、楽しい」


 ハルマキは眼を見開き驚きを隠せなかった。ダンテが死んだ時くらいしか話している所を見ていなかったからだ。


 「そっか!ありがとな」


 ジャンヌはコクっと頷いた。


 皆がテーブルに戻った。ハルマキとロキはようやく飲み物を注ぎに行った。


 皆がテーブルに揃った所で料理が運ばれてきた。


 全ての料理が揃った。ハルマキがリディアに合図を促した。リディアはこれに頷いた。


 「皆さん、日本へは来たばかりですが、明日の昼まで存分に楽しみましょう。では、乾杯」


 チン、とグラスが合わさる音が店内に響いた。


 「美味い!」


 ダンテが叫んだ。


 「だろ?だが、うるさい」


 ハルマキとダンテの間に火花が散った。


 「このクリームパスタ。味付けがセロリアとは全然違う」


 「ほんとだぁ」


 「確かに。でも美味しいですね」


 ジャンヌは頷いた。


 ロキがステーキを頬張った。


 「セロリアの牛と肉質が違うな」


 アニスはチラチラと喧嘩するハルマキとダンテの皿を見た。ステーキにはまだ手を付けていない。


 「二人の回して」


 「いいのか」


 アニスは頷く。ロキは二人のステーキを女性陣の前に置いた。ナイフとフォークを手に、女たちはステーキを頬張った。


 「なかなかね」


 「これはアリですぅ」


 「美味しいですね」


 ジャンヌは肉を呑み込んだあと、コクっコクっと満足げに頷いた。


 その時、喧嘩していた二人はステーキが無くなったことに気付いた。


 「てめぇ、チャラ男!どさくさに紛れて俺のステーキ食っただろ!」


 「は?知らねーよ!アホが食ったんだろうが、白状しやがれ!」


 リディアが咳払いをした。


 「申し訳ありません。私たちが頂きました。本当に、申し訳ありません」


 ハルマキとダンテはしゅんとしてしまった。


 「いや、いいよ。そんなに腹減ってなかったし」


 「俺も全然腹減ってないですよ!お気になさらず、女王陛下!」


 


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